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冷たい空気に秋雨の匂いが混じるトロントの会場で、国境を越える課題が焦点に上った。米環境保護局（EPA）のリー・ゼルディン長官は2025年10月31日、カナダで深刻化する森林火災を巡り、同国政府に問題提起したと明らかにし、米国側の懸念と連携の必要性を示した。米北部に及ぶ大気汚染の影響を踏まえ、山火事をフェンタニル問題と並ぶ越境課題と位置づけた構図だ。
ゼルディン発言の要点
現時点で確認されている範囲では、ゼルディン長官はトロントで開かれた主要7カ国（G7）エネルギー・環境相会合の合間に、カナダの森林火災と米国側への影響について当局間で協議が続いていると述べたと報じられている。米国や州知事、議会関係者からも多くの問い合わせが寄せられているとして、国境管理や保健当局とも連動した対応の必要性に言及したとみられる。
長官は2025年1月にEPA長官へ就任して以降、環境保全と経済の両立を掲げて各地を回ってきた。今回の発言は、越境大気汚染や健康被害を抑えるための実務協議を前進させる狙いがあると映る。森林管理の強化や監視・初期消火の迅速化、情報共有の標準化など、国境を挟んだ現場連携の枠組みが焦点となる。
越境汚染の実相
一部報道によれば、カナダの山火事は偏西風の流れに乗って米東部や五大湖周辺の都市にも煙害をもたらし、過去のシーズンには空港運用や学校活動に影響が出た例がある。煙は微小粒子状物質を含み、ぜんそくや循環器疾患の悪化を招く。米側は広域の空気質指標や衛星観測に基づき勧告を出してきたが、発生源対策と受け手側の緩和策を組み合わせた二国間対応が不可欠だ。
カナダの火災は、乾燥・高温化の進行や落雷増加が背景にあるとされ、鎮火を最優先とする年と、生態系維持と安全確保を両立する戦略的管理が求められる年が交錯する。火線が遠隔地に渡るケースでは迅速な航空投下や人員展開が難しく、鎮静化後の土壌流出や水質悪化も派生する。大気汚染の越境影響は季節風やブロッキング高気圧の配置で増幅しうるため、気象連携の精度が問われる。
G7会合の位置づけ
カナダ政府は2025年10月30〜31日、トロントでG7のエネルギー・環境相会合を共催し、エネルギー安全保障、重要鉱物の供給網、極端現象への備えなどを主要議題に据えた。日程には共同会見や重要鉱物に関する発表が組まれ、環境相枠では山火事対策の国際連携強化もテーマに挙がった。ゼルディン長官の発言は、こうした閣僚協議の周縁での実務メッセージと位置付けられる。
G7は首脳合意に沿って、気象予測の高度化や越境汚染の監視強化、危機時の相互支援手順の共有を前に進めている。今回の会合では、重要鉱物のサプライチェーン強靱化が前面に出た一方で、気候変動がもたらす複合リスクへの適応も議論が継続した。山火事はその象徴的課題であり、保健、防災、エネルギー政策と密接に絡む。
数字でみるカナダの火災と影響
2025年10月30〜31日＝G7エネルギー・環境相会合の開催日。2025年6月時点＝国内で計225件の山火事が同時進行、うち120件が制御不能とされた季節も報告。累計焼失は約370万ヘクタール規模とされ、煙は米東部にも到達。こうした越境影響は空気質指数の悪化として観測され、学校の屋外活動中止や警報発出につながった。
今後の連携と課題
ゼルディン長官の問題提起は、カナダ側の消防・森林当局と米側の環境・保健当局を横断する運用連携の再設計につながる。着目点は三つだ。第一に観測・予測の統合で、衛星・LIDAR・地上観測のデータ同化を強化する。第二に初期消火と森林管理の両立で、間伐・防火帯整備や地域社会の避難計画を更新する。第三に警報と健康被害緩和の実装である。
フェンタニル問題と同様、越境性の高い課題は単独では解けない。密接な情報共有、資機材・航空戦力の相互運用、健康アドバイザリーの統一基準化など、具体の足場づくりが鍵だ。山火事の長期トレンドに気候要因が重なる以上、燃料管理と排出削減、地域のレジリエンス強化を束ねた「総合対応」が求められている。
