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南米太平洋岸の海上で、アメリカ軍が麻薬を運んでいたとする小型船を2025年10月21日と22日に攻撃し、計5人が死亡した。南カリブ海を中心に続いてきた致死的な取り締まりは、今回初めて太平洋へ広がった。作戦の根拠や国際法上の是非をめぐり、周辺国との緊張と米国内の議論が強まっている。
小型船が炎上した海で何が起きたか
最初の攻撃は2025年10月21日に起きた。東部太平洋の既知の密輸ルート上を航行していたとされる小型船が標的となり、2人が死亡した。米国のピート・ヘグセス国防長官は映像を公開し、船が進む先で閃光が走り、火の手が上がる様子を示した。水面には包材のような物体が散らばり、緊張が張りつめる現場の空気が伝わる。
翌22日、同海域で2度目の攻撃が実施され、さらに3人が死亡した。現時点で確認されている範囲では、いずれも海上での対処であり、拿捕や臨検ではなく爆撃が選択された。これにより、9月以降に続く一連の作戦の死者は少なくとも37人に達したとみられる。映像は短く、薬物の積載量や乗員の詳細は公表されていない。
これまでの致死的な攻撃の多くはカリブ海で行われてきたが、太平洋側への拡大で地理的な様相が変わった。周辺では沿岸警備や連携作戦が日常化しているが、今回のように軍用機や誘導弾が密輸船に直接用いられる場面は異例である。作戦は継続方針が示されており、海は一段と殺気立っていると映る。
法的根拠をめぐる応酬
ドナルド・トランプ大統領は、国際水域における船舶攻撃の法的権限が自身にあると主張し、海上での作戦を正当化した。さらに、陸上の標的に及ぶ場合は議会に諮る可能性に言及し、エスカレーションの余地を残した。大統領発言は強硬で、「米国人の命を守るための行動」との位置づけが前面に出ている。
ヘグセス長官は、麻薬組織を「テロ組織」と同列に語り、「我々の街に死と破壊をもたらす存在」と強く非難した。長官は、対象の船舶が密輸ルート上を航行し、情報当局により違法輸送が把握されていたと説明したが、積荷や所属組織の特定など証拠の詳細は示していない。透明性の不足は批判の焦点になっている。
一方で、なぜ本来の海上法執行機関である沿岸警備隊ではなく、軍が致死的措置を担うのかという論点も浮かぶ。国際法上の「武力紛争」概念の適用可否、交戦主体の認定、そして捕捉・拿捕より先に致死的手段を選ぶ合理性など、法学者や議会の疑義は根強い。現時点で確認されている範囲では、政府側の法的説明は断片的である。
広がる波紋、近隣国と現場の人々
南米では反応が割れている。コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、海上での致死的攻撃を「殺人」だとして強く批判し、中止を求める姿勢を明確にした。他方、エクアドル政府は作戦に一定の理解を示している。攻撃から生還した男性2人が本国へ送還され、うち一人が釈放された事例もあり、証拠の扱いをめぐる不信は消えていない。
周辺海域では、夏以降に米軍のプレゼンスが増し、駆逐艦や戦闘機などに加え、約6500人規模の部隊が展開していると報じられている。抑止力の誇示は密輸網の撹乱を狙う一方、誤認や過剰な致死性に対する懸念も背中合わせだ。包材が海面に浮かぶ映像は、証拠の重みよりも先に、破壊の余韻だけを残しているように見える。
麻薬対策の強化自体に異論は少ないが、どこまで軍事化を進めるのかは別問題である。拿捕・立件・国際協力という従来の枠組みを飛び越えるなら、説明責任は一段と重い。海の向こうで爆炎が上がるたび、遠い出来事として消費されるか、それとも法と正義の手続きに引き戻せるのか。問いは水面下で広がっている。
