米議員がSHEINとTemuを調査要請　知財侵害疑いで司法当局に圧力

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2025.12.02

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米国の対中警戒が、いよいよ人気通販アプリにも及んできた。共和党のトム・コットン上院議員は1日、中国発のネット通販大手SHEINとTemuによる大規模な知的財産権侵害や偽造品の疑いがあるとして、連邦司法当局に本格調査を求める書簡を司法長官宛てに送付した。低価格の商品で急成長してきた2社を、米国はどこまで自国のルールで縛ろうとしているのか。

格安アプリ利用者に迫る「見えないコスト」

SHEINやTemuは、数百円台の衣料品や雑貨を次々と投入し、若い世代を中心に世界中で利用を広げてきた。スマホから数タップで中国の工場とつながる感覚は、これまで専門店やブランドが握ってきた販路を一気に越えるものだった。その一方で、デザインの盗用やブランド品の模倣を指摘する声は以前から絶えず、今回の書簡はそうした不信が政治の場にまで乗り上げた形だ。

コットン氏が問題視したのは、安さを支えてきた輸入ルールの変化でもある。800ドル未満の荷物を関税なしで個人宛てに送れる「少額免税枠」が終了し、2社は在庫を米国内の倉庫や配送センターに大量に抱える形へと移行したとされる。商品が自国の領土に置かれることで、税関だけでなく商標法や消費者保護法による取り締まりを強めやすくなる半面、そのコストが最終的に消費者価格に転嫁される可能性もある。

利用者にとってのリスクは、価格だけではない。テキサス州の司法長官はSHEINの労働慣行や有害物質を含む製品の疑いを巡り調査を開始しており、製品安全や倫理面への懸念も強まっている。フランス当局が子どもの外見を模した性玩具や違法な武器の販売を理由に、SHEINの一時停止を裁判所に求めた事例もある。安さと手軽さの裏で、誰がどの水準の安全・倫理を担保すべきなのかという問いが、利用者自身にも突きつけられている。

米議会と当局が問題視するビジネスの仕組み

今回の書簡でコットン氏は、SHEINとTemuが中国からの大量出荷を前提に、知的財産権を軽んじたビジネスを展開していると指摘した。両社はトレンドのデザインを短期間で模した商品を並べ、20ドル前後の衣料品を大量に売ることで成長してきた。打撃を受けているのは高級ブランドだけでなく、小規模なデザイナーや地場のメーカーだという訴えも各国メディアで相次いでいる。

書簡では、捜査の主体として司法省と国土安全保障省の名が挙げられている。両省が動けば、通関時のチェックだけでなく、米国内にある倉庫や配送拠点に対する差し押さえや立ち入り検査も視野に入る。コットン氏は、もはや商品が港を素通りしているわけではなく、「米国の司法権の及ぶ土地に積み上がっている」と強調し、連邦レベルでの本格的な取り締まりを促した。

SHEINは非上場企業で、Temuは中国系のPDDホールディングス傘下にある。いずれも中国の工場ネットワークを背景に膨大な品ぞろえを売り物としてきたが、その管理の手がすべての商品に行き届くのかは見えにくい。だからこそ、企業の自主ルールに委ねるのか、連邦当局がより強い監視と制裁で関与するのかが、今回改めて問われている。

中国系通販を巡る規制強化、世界に広がる波紋

SHEINとTemuへの視線が厳しくなっているのは米国だけではない。欧州委員会は7月、Temuが偽造品の販売を十分に防げていないとしてEUのルール違反に当たると判断し、是正を求めた。フランス政府も、違法な商品掲載を理由にSHEINのサービスを3カ月停止するよう裁判所に申し立てている。巨大プラットフォームで問題が繰り返される場合、一時的な市場からの排除も辞さない姿勢だ。

米国内でも、SHEINの労働環境や原材料の安全性、個人データの扱いを巡って複数の調査が進みつつある。テキサス州の動きに加え、連邦議会では過去に中国発のSNSや通信機器に対しても国家安全保障上の懸念が繰り返し示されてきた。知的財産権、消費者保護、サイバーセキュリティが一体となった懸念として、中国系のデジタル企業全体がひとまとめに扱われる傾向が強まっている。

もし司法省などによる本格捜査が始まれば、2社はサプライヤー監査や商品検証への投資を増やし、価格や品ぞろえを見直さざるを得なくなるだろう。世界のほかの格安通販や、日本企業が委託する越境ECにも、同様の水準で説明責任が求められる可能性がある。安さの裏に潜む知財侵害や安全リスクのコストを、消費者、企業、そして各国政府の誰がどこまで負担するのか――今回の書簡は、その問いを国際社会に突きつけている。

格安アプリ利用者に迫る「見えないコスト」

米議会と当局が問題視するビジネスの仕組み

中国系通販を巡る規制強化、世界に広がる波紋

参考・出典