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薄暗い庁舎の通路を、スーツ姿の男が無言で歩いていく。東京大学医学部附属病院の准教授、松原全宏容疑者は、警視庁から検察庁へ送られる車に乗り込む直前まで視線を落としたままだった。医療機器の選定を担ってきたエリート医師が、企業からの奨学寄付金を通じて便宜を受けたうえ、その一部を私物の購入に充てた疑いが浮上している。研究を支えるはずの寄付金が、どのようにして私的なタブレット端末やパソコンへと姿を変えていったのか、その経緯が少しずつ明らかになりつつある。
研究費という名目で集まった350万円の行方
松原容疑者は整形外科医として、東大病院で使うインプラントなどの医療機器の選定に関わり、審査委員会への申請や後輩医師が用いる製品を事実上決める立場にあった。報道によれば、2016年12月から2023年1月までの約6年間に、医療機器メーカー5社から奨学寄付金として計350万円が大学側に振り込まれ、このうち約300万円が松原容疑者の裁量で使える研究費として配分されていたという。国立大学法人の教職員は刑法上「みなし公務員」とされ、公的性格の強いポジションで企業の寄付と向き合っていたことになる。
東大病院の奨学寄付金制度では、大学が一定割合を管理費として差し引いた残り、約80〜85%が寄付先として指定された医師個人に配分され、学会参加費や機器購入など研究目的で自由に使える仕組みだとされる。本来は臨床や研究の質を高めるための制度だが、その透明性は外部から見えにくい。日本エム・ディ・エム(MDM)側は2020年3月から2023年1月までに3回、1回あたり40万円、計120万円を奨学寄付金として病院口座に送金していたといい、自社製品の採用を後押しする効果を期待していた疑いがもたれている。
タブレット20点と70万円の賄賂が映す構図
捜査関係者への取材によると、問題の奨学寄付金が私物に姿を変え始めたのは2018年ごろとみられる。松原容疑者は学内の生協などを通じ、親族に贈るタブレット端末やワイヤレスイヤホン、医学参考書、私用パソコンなど約20点を購入し、その原資として少なくとも150万円を寄付金から支出していた疑いがある。研究費名目の資金はレシート上は正規の支出でも、実際には家族へのプレゼントや自宅用機器となっており、公的性格を持つ大学口座から私的な生活領域へと静かに流れ込んでいた構図が浮かぶ。
一方、収賄容疑の中心とされるのは、日本エム・ディ・エム製の大腿骨用インプラントを優先的に使う見返りとして、2021年9月ごろと2023年1月ごろの2回にわたり病院名義口座へ振り込まれた計80万円の奨学寄付金だ。警視庁は、このうち約70万円が実質的な賄賂に当たるとみている。報道では、同社製品は2019年に病院へ導入されており、その半年前から営業担当者が松原容疑者に接触していたことも伝えられている。同社は別の病院でも贈賄容疑で社員らが書類送検されており、営業と寄付、そして機器選定がどこで線引きされるのかという問いが、業界全体に突きつけられている。
本来は患者のための治療や未来の医療を支えるはずだった寄付金が、研究室の外でどのように使われていたのか。送検された2人の行方を追う報道の陰で、大学と企業、そして現場の医師をつなぐお金の流れを、静かに見直す必要性だけが、病院の白い廊下に残されている。
