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米ヒューストン発のVenus Aerospaceが、回転デトネーションロケットエンジン(RDRE)の実飛行に踏み出した。2025年5月14日、ニューメキシコの砂漠で小型ロケットが空へ。従来より高効率な推進をねらうこの方式は、将来のマッハ6級の高速航空を滑走路運用で実現する鍵となりうる。技術が机上や試験台を離れ、空で「動いた」意味は大きい。
砂漠の朝、回転デトネーションが空へ
2025年5月14日、スペースポート・アメリカでVenus AerospaceのRDREを積んだ小型ロケットが離陸した。長く理論と地上実験の領域にあったデトネーション推進が、初めて同社の設計で飛行環境にさらされた瞬間である。
燃焼は7秒間にわたり安定して続き、推力は約2,000ポンドに達した。機体側の構造管理や配管系も含め、飛行荷重の下でエンジンが「一揃いの仕事」をやり切ることを確認した格好だ。
ロケットは最高で時速約616キロに達した。短い助走ののち、地表と平行に滑るように伸びた白煙が薄い朝の風に溶け、機体は予定のプロファイルをなぞった。
上空1,340メートル付近でパラシュートを展開し、飛行総時間は約30秒だった。回収後の点検でも主要系統に致命傷は見られず、次段の試験につながるデータが手に入ったとしている。
同社は「米国で開発されたRDREの飛行試験としては初」と位置づける。現時点で確認されている範囲では、地上燃焼で成熟度を積み上げてきた技術を空で検証した最初期の例であり、極超音速機への応用をにらむ一里塚となった。
効率が生む可能性と、先行研究の歩み
RDREは環状の燃焼器内で推進剤と酸化剤を連続的に供給し、超音速の衝撃波がぐるりと回る「回転デトネーション」を維持して圧力を生む。圧力生成を燃焼の熱だけに頼らず、衝撃波そのものを仕事に変えることで、同等の推進剤からより多くの推力を取り出せる設計思想である。可動部品がなく、構造が簡素にできる可能性も魅力だ。
先行研究の実績も積み上がる。米国では2023年末、NASAマーシャル宇宙飛行センターが3DプリントのRDRE燃焼器で251秒の連続運転を達成し、推力は5,800ポンド超に達した。長時間燃焼の制御とスケール拡張の見通しを示したこの成果が、飛行系への展開を後押ししてきたと言える。
Venus Aerospaceが狙うのは、滑走路から離陸し、やがてマッハ6級で巡航する高効率な高速機の実現だ。地上と空で得たデータを往復させ、RDREの小型高出力という特性を空力設計や熱防護、運用コンセプトに結びつける作業が続く。効率が上がれば、同じ燃料で航続を延ばすか、積載を増やすか、あるいは騒音や熱など運用上の制約を緩めるという選択も広がる。
もっとも、効率の数字は条件に敏感で、燃焼室形状や噴射器設計、材料の熱限界が絡み合う。地上試験で示された性能が空でそのまま再現できるとは限らず、飛行域全体での信頼性をどう積み上げるかが焦点になる。今回の短時間の飛行は、その長い検証の入り口に立ったことを示す。
実現までの道のりと次の一歩
今回の試験は、会社が「滑走路発の高速移動」というビジョンへ現実的な道筋を引くための通過点である。空力や熱の制約をにらみながら、推進と機体を一体で最適化する作法は、ロケットと航空機の境界をまたぐ開発に特有の難しさを伴う。サプライヤーを巻き込んだ材料選定、地上インフラや整備性、運航上の安全基準といった現実の要件が、華やかな速度の数字に陰影を与える。
一方で、地上での成熟度は日に日に増す。NASAの長時間燃焼のような基盤技術の前進は、民間側の設計自由度を確実に広げている。試験台で磨いたノウハウを、飛行という「総合試験」に持ち込むことができれば、設計の仮説はより強く検証される。今回の飛行が示したのは、RDREが空で点火し、計画どおりに止まり、回収されるという最小構成の成立だ。
次に問われるのは、飛行時間とエネルギーの積をどう伸ばすかである。推力や比推力の向上、冷却や材料の余裕度、エンジン−機体の熱相互作用など、伸ばすほどに露わになる課題に順番をつけて潰していく必要がある。速度や高度の拡大と同時に、離陸から上昇、加速、巡航、減速という運用シナリオに沿って、システムとしての頑丈さを重ねていけるかが勝負どころだ。
高速移動の未来は、派手な映像よりも地道な実験の蓄積に宿る。今回の「飛んだ」という事実は、その蓄積を次の階段へ押し上げた。極超音速機が日常の空に溶け込む日は遠い。それでも砂漠の朝に立ち上がった白い尾は、技術が現実に近づく過程を確かに描いていた。