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世界気象機関（WMO）創設75周年の節目となった会合で、国連のグテレス事務総長が「異常気象から逃れられる国はない」と危機感を示し、各国に災害の早期警報システムの整備と資金拠出を求めた。2027年までに全員を守るという構想の実現度合いが、温暖化時代の安全保障を左右すると映る。
ジュネーブの拍手の中で響いた警鐘
2025年10月22日 21:00ごろ、ジュネーブの会場に集まった代表団が静かに耳を傾けた。創設75周年を迎えたWMOの特別会合で、グテレス氏は気候危機の現実を端的に突いた。長年にわたる観測と予測が、社会を守る羅針盤になってきたという前提に立ち、あらためて「科学を行動へ」と呼びかけた空気が広がっていた。
同氏は、過去10年のすべての年が観測史上最も暑い年で、海洋熱は記録を更新し生態系を傷めていると指摘した。そして、火災、洪水、嵐、熱波のいずれからも安全な国はないと強調した。貧困国や小島嶼国が最も大きな打撃を受ける現実を踏まえ、保護の網を張り巡らせることが急務だと訴えた姿が浮かぶ。
事務総長は、長期モニタリングや厳密なモデリングがなければ「何が迫るのか、どう備えるのかを知り得ない」と語った。WMOの報告群が語る一貫した物語――地球温暖化が惑星を縁へと追いやっている――を土台に、気象・水文サービスの知見を政策と投資に結びつける必要性をにじませた。
早期警報が変える現実
同氏が強調したのは、早期警報が抽象論ではないという事実である。危険の24時間前に通知が届けば被害は最大30％減らせるという知見がある。適切な体制を備えた国では、災害関連の死亡率が少なくとも6分の1に抑えられているという。農家は作物や家畜を守り、家族は安全に避難し、地域社会は壊滅を免れる道が開けるとした。
2022年に立ち上げた「早期警報をすべての人に」構想は、2027年までに誰一人取り残さないことを掲げる。現時点で60％超の国が多災害早期警報システムを整備しているとされ、最貧国の能力も報告開始以降ほぼ倍増したと述べた。観測網や地域連携、予測能力は年々強化され、デジタル化とAIがデータ交換と警報の近代化を後押ししている。
それでも埋めるべき溝は残る。気象・水文機関を防災の意思決定に組み込み、法制度と運用の接合を広げなければ、正確な警報も住民に届かない。高齢者や障がい者、言語的マイノリティなど脆弱層への到達設計も問われる。現時点で確認されている範囲では、技術と資金、担い手の三点を同時に満たす仕組みが鍵になるとみられる。
資金と連携、最後の距離を詰める
資金は勝敗を分ける。事務総長は、各国が早期警報を政策・機関・予算に埋め込むよう求めた上で、財政余地の乏しさや債務負担に直面する国々への資金の流れを太くする必要性を示した。多国間開発銀行の貸出能力拡大、民間資金の梃子、債務条件の見直しといった国際合意の実装が、最前線の備えを左右すると映る。
同時に、元凶の温暖化に挑む構えも欠かせない。各国は1.5度目標に整合した新たな行動計画を示し、適応資金の倍増や「損失と損害」基金の実質拠出を進める必要がある。早期警報の網を広げることと排出削減の加速は、どちらが欠けても機能しない車の両輪だ。今回の呼びかけが、次の豪雨や熱波が来る前の具体策へ確実につながるかが問われている。
