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2022年の街頭演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の事件を巡り、殺人などの罪に問われた山上徹也被告(45)の裁判員裁判第13回公判が12月3日、奈良地裁で開かれた。この日の争点は、母親の巨額献金と犯行との結び付きだった。初めて法廷に姿を見せた妻の昭恵さん(63)が見守る中、山上被告は「安倍氏は本来の目的ではなかった」と述べ、深く頭を下げた。
静かに向き合う遺族と被告 13回目公判の法廷
この日、昭恵さんは被害者参加制度を使い、検察官のすぐ後ろの席に着いた。黒いジャケットの胸には拉致被害者支援のブルーリボンバッジを付け、午後の開廷時に一礼して入廷したと報じられている。被告人質問が始まる前、証言台に立った山上被告が深々と頭を下げると、昭恵さんはしばらく見つめた後、静かに会釈を返した。
被害者参加制度は、殺人など一定の重大事件で、被害者や遺族が刑事裁判に出席し、裁判の経過を見守ったり被告人への質問などを行える仕組みだ。 事件の当事者でありながら、これまでテレビ越しにしか裁判の様子を知ることができなかった遺族が、法廷で直接その言葉に触れられるようにする狙いがある。今回は昭恵さん自らの質問は行われなかったが、同席自体が「裁きの場に被害者の視線を持ち込む」象徴的な一歩となった。
裁判員制度では、市民が量刑判断にも関わる。遺族がその前でどのような表情を見せるかは、言葉にならない情報として裁判員の記憶に残るだろう。他方で、感情に流されすぎてはならないという緊張感も生まれる。今回の出席は、遺族の思いをどう受け止め、公平な判断につなげるかという難しい課題を改めて突き付けた形だ。
「安倍氏は本筋ではない」 変わった標的と揺れる動機
被告人質問で山上被告は、当初の標的が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のトップだったと改めて説明した。教団側に「一矢報いること」が自分の人生の意味だと考えたとする一方、トップが来日する見通しが立たず、資金的にも行き詰まると感じたため、安倍氏を狙う計画に切り替えたと述べた。「安倍氏は本筋ではないと思っていた」とも語り、狙いはあくまで教団側にあったと強調した。
さらに、自作した銃について「使わなければ、費やした時間やお金の意味がなくなると思った」という趣旨の発言もあったと伝えられている。 以前の公判では、母親の信仰が家計を追い込み、進学や生活に影響した経緯も詳しく語っており、「宗教団体への恨み」が事件の背景にあるとの構図を一貫して示している。弁護側が「政治的テロではなく、宗教的な虐待が背景にある事件だ」と位置付けようとしていることとも重なる。
ただ、刑事裁判において、動機がどれほど切実であっても、結果として一人の命を奪った事実を軽くすることはできない。検察側は、社会に与えた衝撃の大きさや、民主主義の根幹である選挙演説中の襲撃である点を重視し、厳しい処罰を求める構えだ。裁判員らは、「宗教トラブルに起因する強い恨み」と「計画性の高い凶行」という二つの側面をどう量刑判断に織り込むのか、難しい舵取りを迫られている。
宗教献金と家族崩壊、量刑にどう向き合うのか
山上被告の母親は、これまでの公判で証人として出廷し、教団への多額の献金について証言している。報道によれば、自宅や祖父の遺産を売却し、7年ほどの間に総額1億円規模を捧げたとされる。 母親は法廷で「今も世界平和統一家庭連合を信仰している」と述べつつ、息子の行為への謝罪の言葉も口にした。家族の生活基盤が献金で揺らぎ、子どもの進路や人間関係が変わっていく過程が、裁判の中で断片的に明らかになっている。
こうした事情を、どこまで量刑に反映させるべきかは容易に答えが出ない問いだ。宗教団体への高額献金や、信仰を背景とした親の行動が子どもに精神的負担を与えるケースは、近年「宗教2世」問題として社会的な関心を集めている。朝日新聞の取材では、弁護団が事件の背景に「宗教的な虐待」があったと主張する方針だと報じられており、 この裁判は、個別の家族の悲劇と、日本社会が長年見過ごしてきた構造的な問題とが交差する場にもなっている。
一方で、どれほど重い背景事情があっても、暴力による「報復」を認めるわけにはいかないという認識も広く共有されている。被害者参加制度によって遺族が法廷に立ち会い、被告の生い立ちと向き合う現在の裁判は、宗教と家族、個人の責任の境界線を、社会全体でどこに引くのかを静かに問いかけている。
