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フロートで組んだ架台が静かに水面へ送り出され、ワイヤが底へと伸びていく。清水建設は、横浜市内の雨水調整池を活用した水上式ソーラー発電を始動し、送配電網を介してみなとみらい21地区へ電力を届ける仕組みを整えた。自治体が所管する調整池を“発電の場”として生かし、長期の電力販売契約と組み合わせることで、街の脱炭素と公共資産の活用を同時に進める狙いだ。
調整池が担う新しい役割
今回の発電設備は、浮力を持つフロート式の架台に太陽光パネルを載せる構成だ。調整池は降雨時に水位が大きく上下するため、架台と底盤をワイヤで緊結し、風や水位変動に伴う水平移動を抑える設計としている。固定構造物の増築を最小限にしながら、浮体の自由度を確保する工夫が込められている。土木と設備の両面で、都市インフラの一部を発電所に“転用”する発想である。
発電の場として選んだのは、平時は渇水状態にある調整池だ。常時水が張られた池に比べ、水上資材の設置や係留の施工が効率化しやすく、工期とコストの抑制につながるとされる。発電に必要なスペースを既存の公共用地内で確保できる点も大きい。新たに広大な用地を求めにくい都市部において、調整池という“余白”を活かす手法は現実的な解となりうる。
運用面では、降雨に備えた治水機能の確保が最優先である。設備は占有範囲を限定し、係留計画も水理条件に合わせて設計される。気象変化が大きい時季に点検・監視体制を厚くするなど、治水と発電の両立に向けた現場運用が要になる。水面の発電は景観や生態への配慮も欠かせず、地域説明の積み重ねがプロジェクトの安定運用を支える。
電力は街へ、公共資産は身軽に
発電した電力は、送配電網を経由するオフサイトPPAでみなとみらい21地区に供給される。需要家は建物の屋根や敷地にパネルを増やすことなく再エネ比率を高められ、供給側は調整池のような面的空間を活かして出力を確保できる。小売りはグループ会社が担い、発電から需要家までを一体でつなぐ体制だ。長期契約による価格の見通しは、再エネ導入の意思決定を後押しする。
自治体にとっては、所管資産の稼働率を高めつつ維持管理費の抑制が期待できる。民間に開く範囲とルールを明確にし、治水の安全余裕度を損なわない設計・運用を条件に、公共と民間の役割を丁寧に切り分ける。横浜市は雨水調整池の活用を含むオフサイトPPAを段階的に進めており、脱炭素先行地域である都心部へ電力を届けるスキームの整備を急いできた。制度の枠組みが整うほど、案件形成のスピードは増していく。
街側の受け皿も広がっている。市内では調整池の電力を地域エネルギー供給に用いる取り組みが動き出し、発電所の停電時に備えた非常用コンセントの開放など、地域貢献の工夫も見え始めた。需要地の近くで生まれた電気が、熱や空調といった都市の基盤サービスに使われる循環は、地産地消の実感を伴う。調達と供給の両面から、都市のエネルギー体質は着実に軽くなる。
広がりを生む技術と運営の手触り
浮体式の水上ソーラーは、設置の自由度と維持のしやすさが鍵だ。係留ワイヤの取り回し、フロートのモジュール化、保守点検動線の確保といった地道な工夫が、長期安定運用の成否を左右する。降雨後の漂流物対応や藻の発生管理も、治水施設ならではの視点が求められる。技術が現場の運営に馴染むほど、同様の案件は他地域へも展開しやすくなる。
一方で、電力の価値は市場や制度の変化に揺れやすい。長期のPPAを前提にするほど、需要家の脱炭素方針や地域のエネルギー計画と歩調を合わせる重要性は増す。公共空間を借りるからこそ、設備の撤去計画や原状回復の手当てまで含めた“出口設計”も欠かせない。水面に浮かぶパネルの列は、治水、景観、電力を束ねる新しいインフラであり、その成熟は都市の学習速度に比例していく。
水が引いた鏡のような面を、発電の足場に変える。静かな変化だが、そこで生まれた電気が街の鼓動に混じるとき、公共空間の意味は少しずつ更新されていくはずだ。
