ゼレンスキー大統領、ベルリンとコペンハーゲンに事務所設置を表明、輸出収入で国内生産を強化

2025.11.04

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灰色の雲が垂れ込めるキーウの会見場で、声は淡々としていた。ウクライナのゼレンスキー大統領が2025年11月3日、年内にベルリンとコペンハーゲンに武器輸出と共同生産のための事務所を設置すると明かした。輸出で得た資金を不足装備の国内生産に振り向け、戦時の産業基盤を底上げする狙いがあると映る。

年内にベルリンとコペンハーゲンで稼働へ

ゼレンスキー氏は記者団に、輸出対象となり得る兵器として海上無人機や砲兵システムを挙げたうえで、「売却可能な装備は共同生産と輸出で資金化し、不足品目の国内生産に充てる」と述べた。全面侵攻が始まった2022年2月から約3年9か月、軍需の継続性をどう確保するかが国家の命題になっていることがにじむ。

一方で、戦闘機や防空システムでは同盟国の支援に依存が残ると認めつつ、ドローンとミサイル計画は前進していると説明した。大統領は国産ミサイル「フラミンゴ」と「ルタ」を年内に量産へ移す方針も明らかにしており、量で劣る部分を長射程と無人化で補う産業戦略が浮かぶ。現時点で確認されている範囲では、これらは国内外の共同生産網の中核に据えられる見通しだ。

また、来週にはウクライナ代表団がワシントンを訪れ、米国とのドローン協定に関する協議を進める計画とした。調達と生産の両輪で米欧と歩調を合わせる構図がより明確になり、ベルリンとコペンハーゲンの新拠点は、その実務を結節する“前線後方”の窓口となるとみられる。

欧州で広がる共同生産の地図

背景には、欧州側の投資と制度面の下支えがある。ドイツとは追加投資で合意が伝えられ、部材や弾薬といったボトルネックの解消に向けた対話が続いている。ベルリンに置かれる事務所は、現地企業や官庁との調整を迅速化し、共同開発の評価・認証から量産移行までを一気通貫で進める役割を担うとみられる。

デンマークでは、ウクライナ製兵器の調達や共同生産を後押しする仕組みが整い、両国の産業連携は既に加速している。コペンハーゲンの新事務所は、共同生産ラインや実証拠点の運営、輸出管理の順守確認まで含めた“ハブ”として機能する可能性が高い。北欧の港湾・物流網を生かし、無人機や長射程兵器のサプライチェーンを欧州域内で完結させる狙いも透ける。

9月にはウクライナ企業がデンマークでミサイル燃料の生産を始める計画が報じられ、実際の製造拠点の国外展開も動き出している。国境をまたぐ分業は、ロシアの攻撃で国内工場が脆弱となるリスクの分散策でもある。生産地と試験地、最終組立の配置を分けることで、継戦下の供給保証を高める発想が広がっている。

輸出で賄う自給の道筋と、その課題

輸出は外貨の獲得手段であると同時に、共同生産先の政治的コミットメントを引き出す装置でもある。海上無人機や砲兵システムのように、相手国の需要が顕在化している分野から商流を立ち上げ、得た資金を不足分の量産に充てる循環が描かれる。戦時財政の制約下で、自給度を引き上げるための現実的な資金設計だと映る。

ただし、輸出管理や技術移転の合意形成、サプライチェーンの分散に伴う品質保証・知財保護といった課題は根強い。輸出先の規制や許認可の違いは開発日程に影響し、量産入りを遅らせる要因になりうる。現時点で確認されている範囲では、各国政府との覚書や投資枠の設定でボトルネックの解消を先取りする動きが広がっている。

戦闘機や防空システムでの依存は続く一方、無人機とミサイルで主導権を握るという産業戦略は明確だ。ベルリンとコペンハーゲンの新拠点が年内に機能し始めれば、輸出と共同生産を軸にした資金と技術の循環はさらに太くなるだろう。会見場を出る人の足取りは早い。時間と競争の感覚がそこに滲んでいた。