ゼレンスキー氏、停戦で不出馬・議会に選挙要請

ウクライナのゼレンスキー大統領が「戦争が終われば選挙に向かわない用意がある」と語った。2025年9月25日に公開された米アクシオスのインタビューで、停戦が成り立てば議会に選挙実施を要請する意向も示した。戒厳令で大統領選が先送りとなる中、正統性を巡る論争に自ら区切りをつける姿勢を打ち出したかたちだ。

「目標は戦争終結」――本人が語った決意の中身

画面の向こうでゼレンスキー氏は、言葉を選びながらもはっきりと告げた。戦争が終われば自らは選挙に進まないつもりだ、と。目標はあくまで戦争終結であり、権力の延命ではないという一点に論旨を絞った。短いフレーズが重ねられるたび、発言は個人の進退を超えて、国家の出口戦略に焦点を合わせる呼びかけのように響いた。

同じ口で彼は、停戦が実現したなら議会に対し選挙を要請すると明言した。戦時の非常措置が続く現実を前に、完全な平時を待たずとも、有権者の選択を可視化する道筋を探る考えを示した格好である。安全確保の難しさは認めつつも、停戦の間隙を使い、監視や投票環境の整備を詰めることは可能だと踏む。首都を離れる直前、国連総会での滞在を切り上げるさなかに交わされた言葉は、国内向けだけでなく支援国にも向けられていた。

大統領の進退は本来、任期や選挙のカレンダーで測られる。しかし戦争がそれを大きく狂わせた。彼があえて「退く用意」を先に口にしたのは、終戦後の統治移行という重い宿題を前倒しで社会に開示し、政治的な摩擦を小さくするための布石でもある。終わりの形を描き始めなければ、終わりそのものに近づけないという現実を、本人は最もよく知っている。

戒厳令下で止まる選挙、法と運用のいま

ウクライナでは戒厳令が施行されて以降、全国規模の選挙は停止されている。憲法の枠組みと「戒厳令の法」により、非常時には特定の権利が制限されうると定められ、選挙の実施には高いハードルが設けられるからだ。制度の継続性は条文で担保され、議会の任期が切れる場合でも、非常時が解かれるまで権能が延長される設計になっている。民主主義を守るために、あえて手続を止めるという逆説的な選択である。

実務の側も足並みをそろえる。中央選挙管理委員会は、補欠選挙の扱いさえ非常時の解除後に回す決定を出してきた。前線に近い地域だけでなく国内の広い範囲が攻撃の射程にある以上、候補者や投票所の安全をどう担保するかという根源的な問題が立ちはだかる。国境を越えて避難した市民の扱い、占領下の地域での権利保障、違法な干渉の排除など、選挙の「最低条件」をそろえる作業は容易ではない。

それでも政治は止まらない。戒厳令自体は国会の承認を経て延長されてきた経緯があり、今年に入っても期間の更新が重ねられている。ある延長局面では期限を2025年8月6日までとする判断が示され、国家総動員の枠組みも歩調を合わせる。こうした運用は、戦況の変化に応じて安全保障上の必要と民主的正統性のバランスを取り直す営みでもある。選挙は止まっていても、統治の正当性は法の連続性で支えるという考え方が土台にある。

数字が映す世論の温度、そして国外の視線

世論はどうか。最近の調査では、ゼレンスキー氏を信頼すると答えた人が59％、信頼していないとの回答が34％だった。戦況や国際交渉の曲折に合わせて上下動はあるが、非常時の指導者としての求心力はなお高い水準にある。前線の兵士を訪ねる姿や夜毎のメッセージ発信、各国首脳との往来が、国民の「いまを託す」感覚を支えてきた側面は大きい。

一方で、選挙が見送られ続けること自体が国外の政治的論点となりやすい。定例の大統領選が予定されていたのは2024年で、以後の正統性を巡る情報戦が繰り返されてきた。だからこそ本人の「戦後は退く用意がある」という一言は、国内の政権交代可能性を明確にし、外から向けられる視線に対する防波堤にもなる。退任の意志表明は、対外的には制度の健全性を示すシグナルとして機能する。

それでも最大の焦点は、停戦の条件と持続性だ。長射程の攻撃や対抗措置を巡る発言も交錯する中で、政治は安全の現実に従うほかない。選挙の再開は、停戦の安定と国内の運用準備がそろって初めて現実味を帯びる。大統領が描いた「退く時」と国が選ぶ「次の時」を、どれだけ自然に接続できるか。戦場と交渉の推移が、ウクライナの民主主義の時間割を左右する。