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霞が関の廊下に報道陣が集まったのは10月24日。片山さつき財務相は、政府が掲げる「積極財政」と日銀の運営がすれ違うのではないかと問われ、「今コメントしなければならない状況にはない」と静かに応じた。政権が掲げる「責任ある積極財政」をどう予算に落とし込み、日銀の判断と調律していくのか。2026年度編成の地図がにわかに問われている。
財務相は黙する——緩和の継続を踏まえた距離感
片山氏は、政府が前に出る財政姿勢を強調しつつ、日銀の金融政策に関する是非論への言及を避けた。背景には、植田和男総裁が直近の会見などで「緩和的な金融環境を維持して経済活動を支えていくことが大切」との認識を示し、実質金利が極めて低い水準にあると述べてきた流れがある。緩和の持続がベースにあるなら、今この場で踏み込む局面ではない——そんな含みがにじむ。
政府は「積極財政」を掲げるが、日銀が一方で引き締め方向へ舵を切るのかという問いには、財政当局としての言葉を慎重に選んだと映る。発言が市場に先走りのシグナルとして読まれることを避けたい思惑もうかぶ。財政と金融の呼吸を崩さずに景気の足取りを確かめたいという、いわば「静かな対話」の時間帯であるとみられる。
一部の市場参加者は、財政拡張と金融正常化が同時に進めば金利や通貨のボラティリティが高まりうるとみる。ただ、現時点で確認されている範囲では、日銀は緩和の効果と副作用のバランスを見極める姿勢を続けている。片山氏の「今はコメントの局面ではない」という言い回しは、その見立てを踏まえた距離感の表明と読める。
「最終責任は政府」——首相発言と日銀法が示す調律
高市早苗首相は、マクロ経済政策運営の最終責任は政府にあると発言している。片山氏もこの認識を共有しつつ、日銀法が定める政府と日銀の意思疎通の枠組みに言及した。政治の司令塔として経済運営の責任を負いながら、独立性を持つ中央銀行とどう呼吸を合わせるか。二つの歯車を噛み合わせる作法が改めて問われている。
日銀法には、日銀の金融政策が政府の経済政策の基本方針と整合的となるよう、政府と日銀が常に連絡を密にし十分な意思疎通を図るべき旨が規定されている。独立性の否定ではなく、独立と整合の両立を求める文言である点が重要だ。首相の「最終責任」論と条文の趣旨は、方向感として矛盾しない位置にあると映る。
他方で、どこまでを「整合」とみなすかは運用の領域であり、政治と金融政策の接点は常に繊細だ。現時点で確認されている範囲では、政府は賃上げ定着や潜在成長の底上げに資する施策を急ぎ、日銀は物価・賃金・需要の持続性を丹念に点検する構図が続く。政策当局の言葉の温度差をどう詰めるかが、次の焦点として浮かぶ。
2026年度予算へ——「責任ある積極財政」をどう形にするか
片山氏は2026年度の編成に向け、歳出改革の努力を継続しながら重要政策課題には必要な予算を大胆に入れる考えを示した。メリハリの利いた配分を通じて、経済再生と財政健全化の両立を図るという立て付けである。政権が掲げる「責任ある積極財政」とは、拡張の旗を振るだけでなく、選択と集中の線引きを伴うことを意味する。
物価と賃金の好循環の定着、成長投資の加速、災害対応や安全保障といった基礎体力の強化——どの優先順位で資源を配分するかは、景気と期待の行方を左右する。現時点で具体的な配分は示されていないが、骨太の議論と財政規律の運用が鍵となる。将来世代の負担と現在の成長機会をどう均衡させるか、政策選択の重みが増している。
市場は、国債需給や長短金利の形状、為替のボラティリティを通じて予算の輪郭を先読みする。日銀のメッセージと政府の編成方針が噛み合えば、期待の不確実性は和らぐ。他方、言葉の行き違いが生じれば金利や通貨の反応は荒くなりやすい。秋から年末に向けた首相演説や与党内協議、日銀の会合後コミュニケーションが、物語の次章を形作っていく。
