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政府は11月27日、経済財政諮問会議を開き、高市早苗首相は2026年度の当初予算を、足元の物価上昇を十分に織り込んだ形で編成する方針を示した。家計を下支えし成長を促す施策には重点的に資金を振り向ける一方、効果が薄い支出は見直し、補正予算頼みから脱却する財政運営への転換を図る考えだ。物価と賃金が動くなかで、予算の姿をどう変えれば暮らしと将来世代の負担を両立できるのかが問われている。
家計と現場から見た「物価を映す」予算転換
ここ数年の値上げラッシュは、光熱費や食料品など生活必需品を中心に家計を圧迫してきた。一方で賃金の伸びは業種や企業規模によってばらつきが大きく、実質所得が目減りしたと感じる世帯も少なくない。こうした中で、政府が「物価の動きをきちんと織り込んだ予算」に舵を切れば、給付や公共料金の水準を見直す余地が生まれるが、その配分の仕方次第で恩恵を受ける層と負担を感じる層が分かれることになる。
この日の諮問会議では、民間議員からも物価と賃金の上昇を前提にした「物価を映す予算」を求める提案が出された。特に医療・介護の現場では、人件費や光熱費が上がる一方で報酬改定が追いつかず、サービス維持に不安を抱く声が強い。医療系ニュースサイトCBnewsによれば、民間議員は現場のコスト上昇を踏まえた賃上げの在り方を検討し、優先度に応じて予算を配分すべきだと主張したという。
家計の側から見れば、社会保障や賃上げに応じて公的支出が増えれば、短期的には実質所得を守る効果が期待できる。その一方で、増えた支出をどのような税や社会保険料で賄うのかという議論は避けて通れない。とりわけ地方の医療・介護事業者や中小企業にとっては、予算が毎年大きく振れるよりも、中長期的なルールが定まり先を見通せるかどうかが、雇用や投資の判断を左右するポイントになる。
「責任ある積極財政」で何に投資し、どこを削るのか
政府がこの日に示した26年度予算編成の基本方針案では、人工知能（AI）など成長分野への投資を重点化し、「責任ある積極財政」というキーワードを前面に打ち出した。高市首相は、生活支援や成長に資する施策には大胆に予算を振り向ける一方、効果が乏しい事業は見直すと説明している。背景には、大規模補正が常態化する中でも、必要な支出は最初から当初予算に計上し、官民の投資計画の予見可能性を高めたいという狙いがある。
財政運営の指標の面でも、議論は変化しつつある。これまで政府は、国と地方を合わせた基礎的財政収支（プライマリーバランス）の黒字化を重視してきたが、諮問会議に示された方針案では、政府債務残高の対GDP比を安定的に引き下げることが強調された。単年度の収支目標に縛られ過ぎれば景気対策が打ちにくくなるとの懸念がある一方、指標を変えることで歯止めが緩むのではないかという警戒感も根強い。
こうした路線転換を支える人事も進んでいる。ロイターによれば、政府は経済財政諮問会議などの民間議員に、金融緩和と積極財政を唱えてきたリフレ派の経済学者らを相次いで起用した。景気を下支えしたい首相官邸と、財政規律の緩みを懸念する財務当局との間で、どこまで支出拡大を認めるかを巡る綱引きが続いている構図だ。その行き先は、AIや防災といった「未来への投資」を名目にどこまで債務増加を許容するのか、という形で国民に跳ね返ってくる。
補正頼みからの転換と、将来世代へのツケ回しをどう避けるか
高市首相は会議で、近年のように大規模補正が続く状況を踏まえ、「必要な予算は当初予算にきちんと積むことが重要だ」と強調した。裏を返せば、補正で景気対策を繰り返してきた結果、事業の継続性や優先順位が見えにくくなったという反省でもある。当初段階で物価を織り込んだ予算に変えていくことは、国民にとっても政策の全体像や負担の見通しを把握しやすくする試みといえる。
もっとも、支出を増やしつつ債務残高の対GDP比を下げるには、中長期的な成長率と金利の関係が大きな鍵を握る。成長が鈍り金利が上がれば、利払い費が膨らみ、将来世代の負担が急に重くなるリスクがある。高市首相は、来年6月ごろに策定する「骨太の方針」で新たな財政目標をより明確にする考えを示しており、そこでは物価や賃金の想定に加え、税制や社会保障改革との組み合わせが問われるだろう。
26年度予算が「物価を映す」かたちへと変わることは、目先の負担感を和らげる可能性を秘める一方で、いつ、誰が、そのコストを引き受けるのかという新たな問いも突き付ける。成長を優先するのか、将来の安全弁を厚くするのか、あるいは両者の均衡点をどこに置くのか。今回の方針転換は、その分岐点に向けた最初の線引きを国民に示す作業でもある。
