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9日午前の衆院予算委員会で、高市早苗首相と閣僚が2025年度補正予算案の基本的質疑に臨み、審議が本格化した。その場で高市氏は、選択的夫婦別姓を巡る論点と絡めつつ、婚姻前の姓を通称として使えるようにする法整備を与党と協議しながら検討すると表明。名前の扱いを巡る長年の対立が、実務上の「旧姓使用」から動き出そうとしている。
旧姓を名乗りたい人にとっての一歩
結婚を機に姓を変えた人の多くは、職場や取引先では旧姓、戸籍や銀行口座では新しい姓と、場面ごとに名前を使い分けている。名刺やメールアドレスと公的書類の名前が一致せず、説明に時間がかかることも少なくない。政府内では、住民票などに旧姓を併記し、公的手続きや金融機関でも通称として使いやすくする案が検討されている。高市首相も、自らの私案としてそうした仕組みを示しており、今回の国会答弁はその方向性を改めて打ち出した形だ。
一方で、旧姓の通称使用をめぐっては、当事者の負担軽減につながる半面、それだけでは不十分だとの指摘も根強い。日本弁護士連合会などは、戸籍上は夫婦同姓のままで通称だけを広げても、改姓によるアイデンティティの喪失や、手続きごとに本名と通称を証明し直す煩雑さは残ると訴える。兵庫県議会も今年、旧姓の通称使用の法制化とあわせて、選択的夫婦別姓そのものの議論を一層活性化するよう求める意見書を可決しており、現場のニーズは多層的だ。
「通称」か「別姓」か、与党内で続く綱引き
高市政権では、自民党と日本維新の会の連立合意に、夫婦同姓を維持したまま旧姓通称の法制化を進める方針が盛り込まれている。政府は来年の通常国会に関連法案を出す構想を固めつつあり、9日の答弁はその準備が進んでいることをうかがわせた。一方、自民党内には、最高裁判決や国連機関からの度重なる指摘を踏まえ、選択的夫婦別姓制度そのものの導入を急ぐべきだと訴える議員もいて、与党の足並みはなお完全にはそろっていない。
旧姓通称の法制化は、職場や行政手続きの不便を和らげる「現実的な妥協案」として評価する向きがある一方で、これが導入されれば別姓議論が長く棚上げされかねないとの懸念も強い。過去には通称拡大が別姓導入の代替策として機能してきたとの指摘もあり、今回の仕組みが同じ道をたどるのか、それとも制度改革への橋渡しとなるのかは見通せない。9日の国会論戦はその入り口に過ぎず、名字をどう選ぶかという問いは、多くの夫婦にとってなお現在進行形の課題だ。
