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アンカラの裁判所前に漂う、ため息まじりの安堵があった。最大野党・共和人民党（CHP）の党首解任と2023年党大会の無効化を求めた訴えが、2025年10月24日に棄却されたのである。野党の正当性を巡る攻防はひとまず止まり、エルドアン大統領の有力なライバルにかかっていた重しは当面外れたとみられる。だが、試されているのは民主主義の持久力そのものだと映る。
判決が映した揺れる均衡
アンカラの法廷は、共和人民党の「第38回党大会」（2023年11月）をめぐる違法性の主張を退けた。訴えは票買収や手続き違反を理由に党大会の取り消しを求め、オズギュル・オゼル党首の正統性を崩す狙いがあったが、裁判所は取り消しの法的根拠を認めず、現執行部の地位は維持される判断を下したと受け止められている。
仮に無効化されていれば、オゼル氏の解任や、外部からの「管財的な党首」指名に道が開く可能性も指摘されていた。判決は、党内手続きに対する司法の介入範囲をどこまで許容するのかという境界線を示した格好である。与野党の緊張が続くなかで、制度の安定と公正のバランスをどう保つかが改めて問われている。
現時点で確認されている範囲では、裁判所は党大会の手続き適法性を重視し、即時の政局変動を招く判断を避けたとみられる。野党側は一連の訴えを政治的圧力と批判してきたが、今回の判断で少なくとも党運営の継続性は確保された。支持者の間には「まだ戦える」という空気が広がっている。
野党の歩みと司法の影
問題となった2023年の党大会では、長期にわたり党を率いたケマル・クルチダルオール氏に代わり、オゼル氏が新たな党首に選出された。訴えはその正統性に揺さぶりをかける形だったが、CHP側は当初から不正の主張を否定し、手続きは規約に則ったものだと反論してきた。今回の棄却は、少なくとも過去の選出過程を覆すに足る事情は認められなかったことを示す。
一方で、政治的圧力という文脈は拭いきれない。CHPが伸長した地方選後、同党系の自治体を巡って摘発が相次ぎ、イスタンブールのエクレム・イマモール市長は3月に汚職容疑で身柄拘束となった。野党支持者は繰り返し街頭に立ち、司法の独立を求める声が広がってきた。政府側は腐敗摘発の一環であり政治介入ではないと主張している。
この事件は段階的に「山場」を迎えてきた。9月には判断が先送りされ、期日が10月24日に移されたことで、注目は一段と高まった。先送りの報が出た時点で投資家心理は一時的に落ち着きを取り戻し、政治リスクの読み直しが進んだ経緯がある。そこから今日の棄却へと至り、野党の組織運営に絡む不確実性はひとまず後退したと映る。
市場のまなざしと次の一手
政治と市場は敏感に呼応する。9月15日、判断の先送りが伝わった直後には、イスタンブールの主要株価指数が4％超上昇し、通貨リラも小幅に持ち直した。政治リスクの解像度が上がるだけでお金の流れは変わるという事実が、数字に滲んでいた。今回の棄却も、同様の安心感を呼ぶとの見方は根強い。
ただし、きょうの判決直後の相場データは確定値の検証が必要である。裁判の帰結が即座に長期的な資金流入を保証するわけではない。並行して係争が残る分野もあり、摘発や新たな訴追が政治日程を揺らす余地はある。投資家が注視するのは、司法判断の連続性と、政権・野党の対話が制度の枠内で収まるかどうかに尽きる。
野党側にとっては、組織の正当性が改めて確認されたことは出発点にすぎない。イマモール氏の扱い、地方自治体の運営、議会での協調の余地――次に積み上げるべき課題は多い。政治の流れが強権か合意形成か、どちらへ向くのか。今夜だけは肩の力を抜きつつ、明日からの現実的な一手が問われている。
