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測定装置の前で、モニターに浮かぶ散乱パターンのわずかな違いを研究者たちが追っていた。東北大学の鈴木博人助教らのグループは、これまで直接見ることが難しかった「交替磁性体」の磁区を読み解く新しい観察法を生み出した。省エネルギーな次世代メモリー材料として期待される物質の内部で、情報を担う領域がどのように分かれているのか。その姿がようやく具体的な数字として示されつつある。
交替磁性体と見えなかった磁区
交替磁性体は、強磁性体や反強磁性体に続く「第3の磁性体」と呼ばれる。結晶中のスピンは互いを打ち消し合うように整列し、全体としての磁化はほぼ0になるが、特有の配列により磁気モーメントの向きの操作や検出が可能とされる。このため漏れ磁場が小さく、高密度で超高速な磁気記録への応用が期待されている。一方で、情報を記憶する最小単位である磁区の構造や分布を調べる手段が乏しく、どのような物質が実用材料として有望かを見極めることが難しかった。
従来は、中性子や通常のX線を使った散乱測定でも、交替磁性特有の磁区の違いを区別することはほとんどできなかった。鈴木助教らが開発した手法では、マンガンとテルルから成る単結晶MnTeに軟X線を照射し、入射角度を少しずつ変えながら散乱強度を精密に記録する。得られたパターンを理論シミュレーションと照合することで、存在する3種類の磁区の構成比を約47%、22%、31%と推定できたという。これにより、これまで「黒箱」のように扱われてきた内部構造を定量的に評価する道が開けた。
円偏光X線が照らすスピンの秩序
今回の観察の鍵となったのが、右回りと左回りの2種類の円偏光を持つX線である。磁性体の内部では、スピンの配列が鏡映対称性を破ると、2つの偏光に対する散乱のされ方に差が生じる。研究グループはこの「わずかな差」を手がかりに、どのタイプの磁区がどれだけ存在するかを逆算した。円偏光X線は、スピンの超高速な運動や特定元素の磁気状態を選択的に観測できる手段として開発が進められており、交替磁性体の精密な評価にとっても相性の良い道具になりつつある。
交替磁性体では、スピンそのものよりも、その周囲の原子配置や結晶対称性が記憶素子としての振る舞いを決めるとされる。近年は同じMnTeで、スピンの集団運動であるマグノンが独特の性質を示すことも報告され、超高速で損失の少ないスピン流デバイスへの期待が高まっている。今回のように磁区構成を直接推定できれば、候補物質の探索や結晶成長条件の最適化を効率良く進められるだろう。モニター上の小さな強度差が、将来の省エネメモリーの設計図を少しずつ鮮明にしている。
