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BAEシステムズとトルコ航空宇宙産業（TAI）は2025年11月6日、無人航空システム（UAS）分野での協力を検討する覚書（MoU）を結んだと発表した。戦闘機の開発経験と無人機の運用技術を束ね、将来の有人・無人協調運用を見据えた戦略的な枠組みを築く狙いだ。初期検討の対象や役割分担は明らかにしていないが、両社はコスト効率と拡張性を軸に共同研究を進める構えである。
共同歩調が描く次の空戦像
署名の席で、BAEシステムズのデイブ・ホームズ氏は「互いの強みを持ち寄る第一歩だ」と述べ、コスト効率と多様な選択肢の提示を強調した。発言の背景には、有人機を中核に無人機が分散して働く構想がある。単独の高性能よりも、複数の機体を組み合わせて効果を積み上げる設計思想が、近年の空の作戦像を変えつつある。
英国では有人戦闘機の随伴無人機を想定する「ロイヤル・ウィングマン」構想が示されてきた。随伴無人機とは、AIやデータリンクを通じて僚機の索敵や撹乱、打撃を担う無人航空機の総称である。BAEシステムズはステルス性と価格帯の最適化を課題に掲げ、将来の編隊で“手数の多さ”を確保する設計を探ってきた。今回のMoUは、その検討を実機運用に近づける足場となる。
一方のTAIは、ステルス無人機「ANKA-3」を含む開発群で存在感を高めてきた。有人機では国産ジェット戦闘機「KAAN」や高等練習機「ヒュルジェット」を進め、空中プラットフォームの統合開発力を蓄えている。有人と無人の役割を場面に応じて切り替え、編隊全体の生存性と効果を底上げする発想は両社に共通し、協力の接点は多い。
それぞれの強みと狙い
BAEシステムズは第6世代戦闘機を目指すグローバル戦闘航空プログラム（GCAP）の中核企業である。GCAPは機体だけでなくセンサー、電子戦、指揮統制を含むシステム全体を対象とし、有人機と無人機の協調を前提に据える。そこで得た設計知と安全保障要件の運用経験は、無人システムの実装で生きる。TAIとの連携は、こうした上位概念を実際の機体群へ落とし込む近道になりうる。
TAIはUASの試作・量産・運用支援までを一気通貫で提供してきた。AIによる自律飛行やデータ融合の開発も積み上げており、有人機との協調運用を見据えた改良が続く。MUM-T（有人・無人協調）と呼ぶ考え方では、有人機が任務全体を統括し、無人機が高リスクの突入や囮、妨害を担当する。今回のMoUは、その役割分担を国際的な産業連携で磨く試みといえる。
産業面で見れば、BAEシステムズは大型プログラムでの設計管理や安全基準に強みがあり、TAIは短い開発サイクルと柔軟な製造が武器だ。両者が組めば、価格帯の異なる無人機を階層的にそろえ、任務ごとに最適な編成を作る“選択肢の厚み”を示しやすい。欧州の一部や中東で進む装備近代化でも、調達側が求めるのは高性能の一点突破より、運用全体の費用対効果である。
輸出管理と実装のハードル
もっとも、国際共同でのUAS開発には輸出管理や知的財産の扱いが伴う。センサーや暗号、ソフトウェア更新の権利分配は細心の設計が必要だ。加えて、運用データの共有やAI学習の手順も統一せねばならない。機体そのものの性能以上に、データと権限の設計図が協力の成否を左右する。今回のMoUは、その条件整理を段階的に進めるための枠組みと位置づけられる。
技術面では、共同研究から試験機の構築、シミュレーションと飛行実証、量産設計という順で熟度を高めるのが通例だ。随伴無人機の核となるのは、隊長機から抽象化された指示を受け取り、目標探索や電子戦、攻撃を自律的に分担するアルゴリズムである。求められるのは“全部できる一機”ではなく、安全に連携しやすい“役割最適化された群れ”だという理解が広がっている。
各国空軍は「手頃な量（アフォーダブル・マス）」の確保を急ぎ、従来型の高額な増強よりも、無人機を織り込んだ全体最適へ舵を切り始めた。BAEシステムズとTAIの協力は、その潮流に具体的な設計と生産の道筋を与える可能性がある。調達、訓練、維持まで含む運用設計が整えば、編隊の姿は次第に現実味を帯びてくる。
互いの設計図が重なり始めたとき、将来の編隊の輪郭は少し鮮明になる。
