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アメリカと中国の交渉の舞台裏で、AI半導体の“心臓”が揺れている。トランプ米大統領が2025年10月29日、NVIDIAの最先端「Blackwell」の対中輸出に含みを持たせた。30日に予定される習近平国家主席との会談でも議題に上った可能性があり、米中のAI覇権と輸出規制の行方に現実味のある変化がにじむ。
Blackwellをめぐる駆け引きが加速
ワシントンの秋空は澄んでいたが、市場と安全保障の空気は重い。大統領の言葉ひとつで、研究所やデータセンターの需要見通しが揺れる。最新設計の「Blackwell」は生成AIブームの要であり、米国が握る計算資源の優位を象徴する存在だ。その通商の扉をどこまで開くのかが、政権の対中戦略を映す鏡になっている。
トランプ氏は29日、Blackwellについて習氏との会談で協議する可能性を示した。8月には性能を3〜5割落とした“低出力版”なら対中輸出を認める余地に言及したとされ、発言の振幅が大きい。強硬策と取引の両にらみで揺さぶる作法は同氏の持ち味だが、最先端半導体をめぐる一言は政策の地殻変動を誘発しかねないと映る。
企業側も身構える。NVIDIAは規制基準に収めた設計の「B30A」を準備していると伝わるが、仕様の詳細は伏せられがちだ。性能は旗艦機より抑えられる見通しで、帯域や接続など物理層の制限で線引きする発想が浮かぶ。だが量で補う調達が可能なら、中国側の計算力は一挙に底上げされるとの警戒が広がっている。
B30A輸出が変える計算力の地図
10月25日に公表されたシンクタンクInstitute for Progressの分析は、来年までの9つのシナリオを描いた。最良は高性能半導体の対中輸出が実現せず、米国のAI計算能力が中国の30倍規模に達する展開だという。一方でB30A級の輸出が広がれば、来年中に中国が米国を上回る恐れもあるとし、優位の幅は政策でいかようにも縮むと示唆した。
共同執筆者であるティム・フィスト氏は、B30A輸出が決まれば米国のアドバンテージは劇的に狭まると警告した。AIの競争軸はアルゴリズムだけでなく、計算力という“燃料”をどれだけ継続的に確保できるかに移っている。輸出で相手の燃料線を太くするなら、米側は研究資金や人材の投入効率でも不利を背負う構図が見えてくる。
元国務省で安全保障と技術保護を担当したクリス・マグワイア氏も、B30Aが許可されれば実質的に輸出管理の枠組みが形骸化すると指摘した。米国の強みは計算資源と半導体供給網の幅にある。それを譲り渡せば、最善でも互角、下手をすれば劣後に転じるとの見立てだ。大豆などの通商項目と抱き合わせた“取引”にしては代償が大きいという判断がにじむ。
議会のけん制と規制の射程
29日には、民主党のシューマー院内総務を含む上院議員らが規制撤回に反対するよう大統領に求めたと報じられた。法的・安全保障上のリスクを強調する声は以前から根強く、7月や8月にも民主党幹部が商務長官や大統領あてに再考を促す書簡を公開している。議会は“計算力の流出”がもたらす中長期の安全保障コストに神経を尖らせている。
そもそも米国は2022年、軍事転用の恐れがある先端半導体の対中輸出を制限し、中国側のAI開発を遅らせる狙いを明確にした。規制は精緻化を重ねてきたが、境界線は常に動く。アーキテクチャの刷新で性能は年単位で跳ね上がり、クラウドやソフトウェア最適化が実効性能を底上げする。線引きの甘さはじわりと優位の侵食に直結するとみられる。
鍵を握るのは、30日の米中首脳会談の着地点と、その後の輸出審査の運用である。B30Aが解禁されれば、中国は台数で性能差を埋める調達戦略を強めるはずだ。他方で規制を堅持すれば、米側は国内のAIインフラ投資を押し上げ、同盟国と連携した供給網の再設計を進める余地が広がる。計算力の地図をどちらに塗り替えるのか、正念場が続く。
