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カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が2025年9月30日、先端AIの安全性と透明性を高める新法に署名した。対象のAI企業に安全対策の公開と重大インシデントの報告を求め、違反には最大100万ドルの罰金を科す。AI企業が集積する同州が、イノベーションと安全を両立させる規制の枠組みを具体化した意義は大きい。
新法が描く「見える化」の骨格
新法は「最先端AI透明性法」と位置づけられ、上位のAI開発企業に安全フレームワークの公開と、重大な安全上の事案発生時の迅速な報告を求める。根拠となる法案はSB 53で、インシデントは原則15日以内に報告する構造だ。透明性を担保することで、技術の先鋭化と社会的な安心感の両立を図る狙いがある。
想定する重大リスクは具体的だ。AIが関与するバイオ兵器の悪用や重要インフラの妨害、巧妙なサイバー攻撃などを含み、被害規模の目安として50人以上の死者、または10億ドル超の損害といった指標が示される。定義を明示することで、議論が抽象論に流れることを抑える設計である。
公開対象は「安全計画」や「緩和策」の要点で、評価手順やモニタリング方針などが並ぶ想定だ。企業側の創意工夫を妨げない範囲での情報提供を促し、行政や研究者、社会がリスクの兆候を把握しやすくする。制度の重心を「事前規制」ではなく「説明責任」に置いた点が特徴である。
対象企業、罰則、そして現場を守る仕組み
義務の対象は、最先端AIを開発し、年間収益が5億ドルを超える企業に限られる。クラウドや半導体を含む大手が該当する見込みで、中小や創業期の事業者は過度な負担から外す設計だ。計算資源の閾値に連動した監視の考え方も取り入れ、実態に沿って適用範囲を調整する。
違反に対しては厳格な金銭的措置が用意された。義務に違反した場合、1件あたり最大100万ドルの罰金が科される。罰則は透明性確保の「最後の担保」として機能し、遵守インセンティブを明確にする。罰金頼みではなく、事前の公開や手順整備を促す予防的な効果が狙いだ。
現場の声を引き上げるため、内部告発者の保護も強化された。安全リスクや違反を報告した従業員が不利益を受けないようにすることで、潜在的な危険の早期把握を後押しする。加えて、公的研究の基盤となるクラウド環境の整備に触れ、民間との情報循環を高める布石も打たれた。
揺れた一年を越えて、州が選んだ落としどころ
同州では前年、より広範な規制案が対立を生み、最終的に退けられた経緯がある。今回は「透明性」と「高リスク特化」に軸足を移し、産業の自律的な安全管理を前提に据えた。規制の射程を絞ることで、技術進歩のスピードを損なわずに社会的な安心を積み上げる構図が浮かぶ。
産業界の反応は割れている。既存の自主的取り組みと整合的で実務的だと評価する声がある一方、州ごとの差異が生む「規制のパッチワーク」への懸念も根強い。連邦レベルでの包括的枠組みを求める意見もあり、州の先行ルールが全米議論の呼び水となるかが注視点になる。
現時点で確認されている範囲では、制度の鍵は運用設計にある。何を「重大インシデント」とみなし、どこまで公開するか。報告期限15日の運用や、安全計画の更新頻度の実効性も問われる。AIの能力が短期で変化する時代に、基準と手順をどう機敏にアップデートするかが試金石だ。
