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冷却ファンの低い唸りが、人気のない山あいの建物に響いている。そこに並ぶのは、取引記録を計算で検証して報酬を得る「ビットコイン採掘（マイニング）」用の機械だ。中国政府が暗号資産の取引と採掘を全面禁止してから4年、採掘業者たちはデータセンターや工業団地の一角に紛れ込み、静かに再びスイッチを入れ始めている。統計や企業決算には、その動きがはっきりと映り始めた。
地下に潜った採掘が再び動き出す
中国はかつて世界最大のビットコイン採掘国だったが、2021年の全面禁止で世界のハッシュレート（採掘に投入される計算能力）に占める比率は一時0%まで落ちた。しかし、業界データ「Hashrate Index」によると、2025年10月末時点で中国のシェアは約14%まで回復し、採掘拠点として世界3位に返り咲いたとされる。別の分析会社CryptoQuantは、実際の設備能力ベースでは世界全体の15〜20%が中国にあるとの推計も示し、統計の上でも復活が裏付けられつつある。
禁止後も完全には止まらなかった地下採掘が、この数年で再び勢いを増した。採掘機が集まるのは、新疆ウイグル自治区や四川省など電力の余剰が出やすい地域だ。送電網の制約で外部に流せない電気や、地方政府が過剰に建設したデータセンターに余った電力が、採掘業者に割り当てられていると指摘される。名目上はクラウドサービス向けのサーバーだが、実際には採掘機が並ぶ施設もあるといい、規制と経済合理性の間でグレーなビジネスが広がっている構図だ。
ビットコイン高騰と電力余りが生む静かな追い風
こうした動きを後押ししたのが、ビットコイン価格の急騰である。2025年10月には1ビットコインが約12万6000ドルと過去最高値を付け、採掘1枚あたりの収益性は大きく改善した。トランプ米大統領が打ち出す暗号資産に寛容な政策や、ドルへの信認低下への警戒感が背景にあるとみられる。価格が上昇すると、電気代と機器投資を差し引いても利益が出やすくなり、規制リスクを抱えた中国の業者にとっても「再挑戦する価値がある」と映った可能性が高い。
中国各地では、デジタル経済を育成しようと地方政府がデータセンター建設に巨額投資を行ってきた。しかし景気減速や需要の読み違いでサーバー稼働率が伸び悩み、余った電力や建物をどう活用するかが課題になっている。そこに目を付けた採掘業者が、正式なクラウド需要の穴埋め役として入り込む構図だ。かつて撤退した元採掘業者が戻る動きも伝えられ、エネルギー政策、デジタル産業育成、金融規制が複雑に絡み合いながら、禁止と実態のギャップが広がっている。
機器メーカーの決算ににじむ中国市場の重み
変化は、採掘機メーカーの数字にも表れている。大手ASIC（専用集積回路）マシンメーカーCanaanは、2023年の売上高のうち30.3%を中国市場で稼いだと公表しており、2022年の2.8%から急伸した。さらに2025年4〜6月期には、総売上高に占める中国の比率が5割を超えたともされる。ビットコイン価格の上昇に加え、米国による関税や規制への不透明感から海外顧客の需要が鈍る一方、国内では地下採掘の広がりを背景に機器更新や増設の需要が盛り上がったとみられる。
もっとも、中国政府は暗号資産の取引と採掘そのものの禁止を維持しており、公に方針転換を認めたわけではない。Canaanのような企業は「採掘機の製造と販売は合法」という建て付けのもとで事業を続け、利用者側の違法性との線引きに責任を負わない構図だ。巨額の電力と設備投資を前に、完全な取り締まりは難しいという現実がにじむ。山あいのデータセンターから聞こえるファンの音は、その矛盾を静かに映し出している。
