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電話口で語気を強めたのは王文濤商務相だった。2025年11月11日、同氏はドイツのカタリナ・ライヒェ経済エネルギー相に、オランダ政府が中国系半導体メーカー、ネクスペリアの経営権を一時掌握した措置の撤回を促すよう求めた。中国は対抗措置として同社の中国生産品の輸出を絞り、のちに一部を緩めたが、往来する部材は滞りがちだ。供給網の綱引きは、企業をはさみ静かに続いている。
要請の中身とドイツの立場
王氏はライヒェ氏に対し、オランダ側が速やかに具体的手続きを取り、関連措置を撤回するよう働きかけてほしいと伝えた。通商当局の調整を通じて早期の解決を探る狙いだ。独経済省は個別の2国間協議への言及は避けつつも、関係当局や企業と緊密に連絡を取っていると説明している。言葉を選びながらも、各所で情報の往復が続く。
ライヒェ氏は独中の経済関係の重要性を強調しつつ、両国間の貿易不均衡が広がっているとの懸念にも触れた。産業の現場が必要とする安定供給と、国家間の安全保障上の警戒感。その二つの優先順位が、今回のやり取りの背後でせめぎ合っている。独政府は欧州連合（EU）内の議論とも歩調を合わせる必要があり、発言の一つひとつが周辺国の受け止めに影響を与える。
現時点で確認できる範囲では、ドイツは「仲介役」として直接の結論を急がず、関係各国との調整に重心を置いている。中国側は「輸出規制の緩和」という譲歩のシグナルを示した一方で、オランダの「経営権掌握」措置が続く限り正常化は限定的だとみている。要請は強まるが、調整の歩幅は細かい。
ネクスペリアという基盤
ネクスペリアはオランダに本社を置く半導体メーカーで、ウィングテック（中国）の傘下にある。主力は自動車や家電で不可欠な離散半導体だ。欧州に設計や前工程の拠点を持ちつつ、後工程は中国に厚い。同社の出荷が滞れば、完成品メーカーの在庫計画や代替調達に連鎖しやすい構造にある。サプライチェーン（供給網）の脆弱性は、部品点数の多い車載分野ほど表面化しやすい。
2025年秋、オランダ政府は「国内の供給確保と経済安全保障」を理由に、同社の経営判断に介入する強い権限を発動したと伝えられた。経営トップの交代を伴う措置は異例で、同国の法制度に基づく非常時対応の位置づけとされる。措置の射程は企業統治に及び、取引先にとっても意思決定の所在が見えにくくなる。ここで生じた不確かさが、発注や在庫の積み直しを誘発した。
一方、中国側は10月初旬に同社の中国生産品の輸出を抑制する管理措置を導入し、のちに限定的な緩和に転じたとの報道がある。現地に在庫はあっても、通関や適用品目の判断で詰まれば、各地の工場に届くタイミングは乱れる。緩和に踏み込んでも、輸送と品質保証の確認に時間差が生じ、当座の需給はきしむ。政策の振れ幅が、そのまま現場のリードタイムに映る。
揺れる供給網と欧州の計算
欧州の一部では、重要品目の供給確保と対外依存の度合いを見直す動きが進む。だが、自動車の量産現場は細かな部材の納期で成り立つ。代替調達には設計変更や認証の手間が伴い、短期では置き換えが難しい。中国側の緩和が段階的だとすれば、「止血」はできても、完全な正常化には時間がかかる。企業は高優先のラインに在庫を振り向け、急場の需給をしのぐ対応を強いられる。
ドイツは欧州最大の製造業国として、部材の安定と市場アクセスを同時に求める立場にある。ライヒェ氏が就任以降、現実的な産業政策を掲げてきたこともあり、今回の案件でも拙速な決着より実務的な緩和策の積み上げに重心を置くとみられる。オランダとの連携、EUの枠組み、対中関係の三つ巴で、落としどころは限定的な権限縮小や管理の透明化から始まる可能性がある。
他方、法的措置の根拠と企業統治の問題は、外交の合意だけでは解けにくい。経営権の扱い、知財や人員移動の監督、製造拠点の再配分など、長い時間軸で詰める論点が残る。輸出が段階的に再開しても、各社は適用品目の確認と検査の上乗せを続けるだろう。数量が戻っても、安心が戻るには一拍遅れる。市場は、その遅れを織り込みながら動いている。
