日中緊張の裏で揺れるエンタメ界　日本映画の公開見合わせや公演見直し相次ぐ

※記事を視覚化したイメージであり、実際の事象とは異なります。

2025.12.07

本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。[続きを表示]ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]

高市早苗首相が国会で「台湾有事」が日本の存立を脅かす事態になり得ると述べて以降、中国は日本政府に強く抗議し、日中関係の緊張が続いている。そのあおりを最も早く受け始めた分野のひとつが、日本の音楽や映画などエンタメ産業だ。中国側は日本への渡航自粛を呼びかける一方、自国で予定されていた日本映画の公開見合わせや公演計画の見直しが相次ぐ。政治と文化のあいだで、誰にどのような負担がのしかかっているのかが問われている。

中止や延期の裏で揺れるファンと現場

中国では11月半ば以降、日本映画の一部作品について上映が直前になって見送られたと、日本の週刊誌などが報じている。一方で、日本発の人気アニメ映画は予定通り公開され、作品ごとに扱いが分かれる「ダブルスタンダード」だと指摘する声もある。興行関係者の間では、「政治的なメッセージ性が弱い作品だけが線引きされているのではないか」との見方が広がる。

音楽の世界でも、人気歌手の中国ツアーや、お笑いフェスティバルへの日本勢の参加中止が相次いだ。安全上の理由と説明される一方で、ファンの側からは「音楽に罪はない」「せっかく取ったチケットが無駄になる」といった不満が中国のSNS上で漏れていると各紙は伝える。現場の制作会社にとっても、渡航制限と世論の両方をにらみながら企画を組み直す作業が続き、コストとリスクが膨らんでいる。

こうした動きは、日本側にも跳ね返る。日本政府観光局（JNTO）の統計を基にした観光専門メディアの集計では、2025年1〜9月に日本を訪れた中国人旅行者は約749万人で、国別では依然として最大の市場だ。ライブやイベントに参加する旅行者も多く、渡航自粛が長引けば、チケット収入だけでなく周辺の観光消費にも打撃が出かねない。

強硬姿勢と内向き世論、そのはざまで揺れる中国当局

中国外務省は11月14日、日本への渡航を当面控えるよう国民に呼びかけ、高市首相の発言を「台湾を巡る露骨な挑発」と非難した。その後も在日中国大使館がSNSで注意喚起を繰り返し、日本に滞在する中国人は安全対策を強めるよう求めている。外交カードとしての圧力を維持しつつ、自国民の安全確保にも配慮する姿勢を打ち出した格好だ。

他方で、中国国内では、文化交流まで一律に絞り込むことへの違和感もにじむ。韓国への経済・文化制裁「限韓令」で、自国観客の不満や映画産業への副作用が出た経験があるだけに、今回も同じ轍を踏むべきではないとの論調が一部メディアで紹介されている。当局としては対日強硬姿勢を崩せない一方、人気の高い日本コンテンツを完全に止めれば、若い世代を中心に反発が強まるリスクも抱える。

結果として、日本映画の中でも政治色が薄い大ヒット作は公開を認める一方、別の作品は審査や宣伝許可を遅らせるといった、複雑な線引きが生まれていると報じられる。高市首相の発言を受けて日中が緊張を高める中でも、国内市場の人気や世論の反応をにらみながら「さじ加減」を探る中国当局の迷いが、エンタメの現場に微妙なかたちで反映されている。

文化交流の細いパイプをどう守るか

外交面では、日本側も中国の反発を受け、高市首相発言の趣旨を説明しつつ、台湾問題の平和的解決を求める従来の立場は変わらないと繰り返している。一方で、日本大使館は中国在留邦人に向けて、歴史問題が注目される時期には反日感情が高まりやすいとして、目立つ行動を控え慎重に行動するよう安全情報を発出した。双方が自国民の安全を優先すると、公的な交流やイベントはどうしても縮小しがちだ。

ただ、過去を振り返れば、政治関係が冷え込んだ時期でも、アニメや音楽を通じた草の根の交流が将来の信頼回復の足場になった例は少なくない。今回も、中国の若い観客が日本の作品を通じて日本語や文化に触れ、日本側のクリエイターが現地の反応から学ぶという長期的なメリットは変わらない。両政府が安全や主権の議論を続ける一方で、民間レベルの文化の往来をどう維持するかが問われている。

エンタメを巡る規制は、軍事や経済より先に動きが表れる「体温計」のような側面がある。今回の揺らぎを、単なる報復合戦として消費するのではなく、両国がどこまで相手社会との接点を残すのかを考えるきっかけとすることが、長い目で見れば双方の利益にもつながりそうだ。