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中国外務省が動いた。2025年11月4日、来年11月に中国・深圳で開くAPEC首脳会議を巡り、台湾が示した安全上の懸念を否定しつつ、参加の鍵は確立された慣行と「一つの中国」原則、そして関連覚書の順守にあると表明した。台湾は「チャイニーズ・タイペイ」として出席してきたが、開催地が深圳に決まったことで、参加条件の線引きが早めに示された形である。
焦点は「安全」ではなく「原則」
中国外務省は、主催国としてAPECのルールと慣行に従い義務を果たし、全参加者の円滑な参加に問題はないとする回答を示した。運営面の担保を先に明言することで、会期に向けた実務調整に弾みを付ける狙いがうかがえる。声明は、受入準備の段階で不確実性を減らすメッセージでもある。
同時に、台湾の参加条件は安全確保ではなく、「一つの中国」の原則とAPECの関連覚書の順守だと強調した。これは論点の中心を安全から手続きへと移す動きであり、名称表記や代表の格付け、会場での扱いなど、政治と実務の境界を明示する効果を持つ。開催国としての裁量を枠内で行使する姿勢がにじむ。
緊張が続く情勢下で、声明は予防線としても機能する。抗議や混乱が生じても運営責任を果たすという立場を前面に出しつつ、参加の前提条件では譲らないという構図だ。安全は担保するが、手続きは既定の枠に従うという二層のメッセージが並ぶ。
台湾側の懸念と過去の記憶
台湾外交部の高官は2025年11月1日、前年の会合で中国が全参加者の安全を文書で保証したと明らかにした。同時に「同等の扱い」への不安を口にし、同様の懸念を共有する関係国があるとも述べた。安全の約束がある一方で、現場運用の細部が信頼の度合いを左右するという見方である。
APECでは台湾は「チャイニーズ・タイペイ」名義で参加し、総統は出席しない慣行が定着している。政治的摩擦を避けるための枠組みだが、受入側の設計次第で、動線や双方向の接触機会に差が生じうる。フォーマットは同じでも、参加の質は運営で変わるという繊細さが残る。
中国が前回主催した2014年は、馬英九政権下での対話進展が背景にあり、空気は今より穏やかだった。一方、2001年には代表人選を巡る行き違いから、台湾がボイコットに踏み切った経緯がある。記憶の両端が、今回の準備過程を慎重にさせている。
深圳開催が映す利害の交差
開催地の深圳はハイテクが集積する都市で、主催国はAIやデジタル経済の協力を前に出す構えだ。通商やサプライチェーンの議題と親和性が高く、域内成長の設計図を描く場になりうる。都市の顔つき自体が、今回の会議の方向性を象徴する。
来年の首脳会議に向け、代表の構成や首脳同士の動線、周辺会合の設計が詰められていく。台湾にとっては、慣行の枠内で実務対話の厚みをどう確保するかが焦点だ。場の設計が均衡を生み、相互の接点をどれだけ増やせるかが、成果の輪郭を左右する。
早い段階のメッセージは、参加の条件と配慮の線引きを浮かび上がらせた。最終的に記録に残るのは文言だが、会場で交わる視線や歩幅が、関係の温度を静かに映す。決められた枠の内側で、動きの細部が次の季節を示すだろう。
