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蒲焼の湯気が立つ台所の奥で、国際ルールが静かに動いた。2025年10月15日、ワシントン条約事務局が、ニホンウナギを含むウナギ属の全種を国際取引の規制対象に加えるべきだとする欧州連合などの提案について「採択を勧告する」と最終評価を公表した。年末の締約国会議で可決されれば、輸出は許可制となり、日本の価格や流通に波紋が広がるとみられる。
事務局勧告が映す重みと、提案の射程
事務局が勧告まで踏み込むのは、科学的・制度的に「国際管理が妥当」と映るときである。2025年10月15日の最終評価は、11〜12月に開かれる次回の締約国会議での審議の土台となり、各国の票の行方を左右する材料になる。開催地については一部報道でウズベキスタンとされるが、最終的な決着は会議の投票に委ねられる構図だ。
提案は、食用として流通するニホンウナギを含むウナギ属（Anguilla）の全種を国際取引の規制対象に位置づける内容とされる。現時点で確認されている範囲では、資源動向の不確実性や国境をまたぐ流通の追跡の難しさが論点に浮かぶ。広く属全体を括ることで、抜け道を減らし、国際的な管理の実効性を高める狙いがにじむ。
附属書IIに掲載されても商業取引が全面的に禁じられるわけではない。輸出国の許可を受けることを前提に取引は可能で、制度の要は「許可制」にある。許可は輸出国が発給するため、各国の体制整備や審査の厳格さが流通量や速度に直結する。結果として市場の安定性が揺れ、価格のボラティリティが高まる懸念が広がっている。
日本の反論と東アジアの足並み
日本は世界最大級の消費地であり、近年は輸入への依存度が高い。政府や業界は、各水域での資源管理の取り組みや国内養殖の役割を挙げ、「十分な資源量が確保され、国際取引による絶滅の恐れはない」との立場を示してきたとみられる。規制が拙速に広がれば、合法的な流通まで阻害されるとの警戒が根強い。
一方で欧州側は、資源評価の不確実性や違法・無報告のリスクを重視し、国際的な枠組みで網羅的に管理すべきだと主張している。稚魚段階から国境をまたぐウナギの流通特性を踏まえ、トレーサビリティの国際標準化を急ぐべきだという見方だ。事務局勧告は、この欧州側の論点整理を後押しする性格を帯びる。
東アジアでは、日本が中国や韓国と共同で資源管理を進めてきた経緯がある。一部報道によれば、各国は提案に反対の姿勢を強め、否決を目指す構えだ。地域の利害は密接に絡み合い、票読みは容易ではない。会議の場では、域内管理の実績と国際枠組みの必要性をどう折り合わせるかが問われる展開となりそうだ。
食卓と現場はどう変わるか
仮に採択されれば、輸出は許可制となり、輸出国の審査や証明の手続きが加わる。流通の速度が落ち、コストが上がるリスクは避けがたい。許可枠が絞られれば、国内への供給は細りやすく、価格上昇圧力がかかる図が浮かぶ。並行して、違法流通の締め付けが強まることで、グレーな在庫が市場から排除される効果も期待できる。
制度変更のタイミングも重要である。附属書改正は採択から一定期間を経て発効するのが通例で、過去の会議では採択からおおむね90日で効力が生じた例がある。準備期間に需要期の分散や在庫の適正化をどう進めるか。小売や外食の発注慣行、物流の冷凍・保管能力まで含めて、現場の調整力が試される。
消費者の選択もまたカギを握る。養殖の認証取得や、国産・輸入の別にかかわらず合法・適法性の担保を重視する流れは加速するだろう。資源の持続性と文化の継承をどう両立させるか。土用の丑の日の一皿を守るために、行政の監視強化、業界のトレーサビリティ、私たちの買い方という三つ巴の工夫が要ると映る。
