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ダッカの法廷に緊張が走った。2025年10月16日、昨年の学生主導デモ弾圧をめぐり、人道に対する罪で起訴されているシェイク・ハシナ前首相に対し、検察が死刑を求刑した。最大1400人が死亡したとされる一連の暴力の責任を、国家の最高権力者に問う異例の局面である。前首相は失脚後にインドへ退き、不在のまま審理が進む構図が続いている。
求刑が突きつけた重さ
2025年10月16日、ダッカの国際犯罪法廷（ICT）で検察側の最終弁論が終結し、ハシナ前首相とアサドゥザマン・カーン・カマル元内相に対して死刑を科すよう求める申立てが出された。審理は不在裁判のかたちで進んでおり、当事者が法廷に姿を見せないまま、重い判断の土俵に乗ったと映る。
主任検察官のモハンマド・タジュル・イスラム氏は、昨年の抗議運動で多数の死者が出た事実関係を強調し、「最も重い処罰」を求める論旨を組み立てた。氏は個別の殺人が積み重なった重大性を指摘し、量刑の象徴性にも言及したとされる。求刑の言葉は、遺族の視線と向き合うように響く。
同じ訴因で起訴されたチョウドリー・アブドゥラ・アル・マムン前警察総監はこれまでに罪状を認め、証人として供述した経緯がある。検察はその扱いについて裁判所の裁量に委ねる姿勢を示し、指揮系統の責任をどう描くかが最終判断の焦点として浮かぶ。
流出音声と「法廷侮辱」
法廷の外でも波紋は広がった。流出した音声記録をめぐり、前首相はすでに法廷侮辱罪で禁錮6カ月の判決を受けている。記録は鑑識で真正と判定され、前首相が自身に対する多数の訴追と「殺害の免許」を結びつける発言をしたと解される内容だった。政治と司法の緊張が交差する場面である。
一方で前首相は審理の正統性を否定し、いわゆる「カンガルー法廷」と批判してきた。本人の弁護団は任命されておらず、国選の弁護人が主張整理の時間を求めている段階だ。発言と否認が交錯し、世論の受け止めも割れる中で、裁判所は記録に基づく判断を迫られている。
検察側は、抗議者への対応で「致命的な武器の使用」まで含む強硬策が組織的に指示されたと主張し、準備や意思決定の過程に元内相らが関与した構図を描いた。上空からの武力行使の検討に触れる説明も示され、作戦立案の重層性をにじませる。命令系統の立証が、量刑論議の土台になっているとみられる。
血の7月が残した傷跡
昨年の抗議は、学生を中心に広がった不満が一気に噴出し、各地で衝突が連鎖した。最終局面では政権中枢にも群衆が迫り、前首相は8月5日に職を退き国外へ退いた。街路に残ったのは、破壊されたバリケードと焦げ跡、そして急ごしらえの献花である。社会の深い亀裂が露わになった時間だった。
犠牲者数をめぐる認定にも幅がある。国連側は今年2月の段階で、暴力の犠牲が最大で約1400人に達した可能性を示した。他方、暫定政府側の保健当局者は800人超の死亡と約1万4000人の負傷に言及している。数字の揺れは大きいが、規模の深刻さは覆い隠せない現実として残る。
その後、前政権期の人権侵害を巡って軍・治安機関幹部らの訴追が相次ぎ、少なくとも25人の軍幹部が別件で起訴された。政治面ではアワミ連盟の活動が禁じられ、暫定政権は2月の総選挙実施を繰り返し表明している。だが主要勢力の不参加が続けば、選挙の包摂性には疑念が残りかねない。
揺れる正当性と次の一歩
ICTはもともと1971年の戦時犯罪を裁くために設置された経緯があるが、現在の審理をめぐっては、検察や裁判体の公正性に疑問を呈する声も出ている。政治対立の延長線とみる向きがある一方、被害者遺族は「責任の所在を明らかに」と訴え、正義の回復を求めている。視点の落差が鮮明である。
現時点で確認されている範囲では、法廷は次の弁論日程を設定し、判決期日の指定はこれからだ。求刑はあくまで検察の主張にすぎず、量刑は証拠評価と法の適用で決まる。だが、政治の節目が近づく中で司法判断が社会に落とす影は小さくない。次の一歩を、国内外が固唾をのんで見守っている。
