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警報が重なったのは現地9日夜、原子力施設と空港の両方だった。ベルギー北部のドール原子力発電所上空で3機のドローンが検知され、同じ夜にはリエージュ空港でも飛行が目撃されて運航が一時停止した。所管や運営側は安全確保を優先し、英国は要請に応じて対ドローンの専門家と装備を派遣すると明らかにした。混線の気配を帯びる攪乱が、重要インフラの周縁を静かに叩いている。
発電所と空港で続いた「同時進行」
現地9日夜、アントワープ近郊のドール原子力発電所の上空で、許可のないドローン3機が確認された。運営するエンジーは、原子炉の運転や安全に影響はなく、直ちに当局へ通報したと説明している。施設の上空は飛行制限の対象であり、監視網は平時から多層化されているが、夜間に複数機が同時に現れた事実は、対応の難しさを浮かび上がらせた。
同じ時間帯、リエージュ空港では別のドローン目撃が重なり、滑走路の安全確認のために運航が一時停止された。停止は短時間にとどまったが、貨物拠点でもある空港のダイヤは詰まりやすく、到着や出発の調整が連鎖する。空港の安全手順は視認やレーダー、通報の三本柱で成り立つが、低高度・低視認の機体が混じるだけで、現場は慎重な判断を迫られる。
この数日にかけて、ベルギーの空港や軍事施設周辺では類似の通報が相次いだ。首都圏の主要空港でも運航停止や迂回が発生し、乗客の滞留や貨物の遅延が目立った。国家中枢機能や物流拠点が密集する地理的特性は、監視や遮断の体制強化を急がせる一方で、誤認や過剰反応を避ける「見極め」の難度も上げている。
英国の派遣と域内連携の広がり
英軍のナイトン統合参謀総長は放送局の取材に対し、ベルギーの要請に基づき、対ドローンの専門家と装備を派遣していると述べた。装備の詳細は非公表だが、探知、識別、妨害の各機能を組み合わせた運用が想定される。関係国の支援は段階的に広がっており、域内では空港や軍施設での警戒水準が一斉に引き上げられた。
国家間の支援が加速する背景には、空港・原子力・軍事の3領域が同時に揺さぶられたという事情がある。空港の管制は広域の交通と直結し、原子力施設は安全確保に最優先の余裕を必要とし、軍施設は情報保全の観点からもリスクが高い。3つの警戒線が交差するとき、国内だけの対処では間に合わない。ベルギー政府は関係閣僚協議を重ね、運用面の継ぎ目を素早く塞ぐ対応を続けている。
一方で、発生源の特定は容易ではない。商用機に比べて小型で低空を飛ぶドローンは、飛行時間やペイロードの差が大きく、機体の断片や通信履歴が回収されない限り、操縦者の把握は難航する。域内連携の強化は、機材の拡充だけでなく、法執行や証拠収集のプロトコルを共有し、再発時の初動を平準化することにも意味がある。
見え隠れする「ハイブリッド」の発想
欧州では近年、重要拠点の周辺で断続的にドローンが確認されている。今回の一連の動きについて、英軍トップは、出所は断定できないとしつつ、近年の「ハイブリッド戦争（軍事とサイバー、情報工作、攪乱を組み合わせる手法）」で見られるパターンに似た兆しがあると指摘した。ロシア政府は関与を否定しており、捜査当局も現時点で特定の主体を名指ししていない。
ハイブリッド型の攪乱は、物理的被害を伴わずとも、社会の時間を奪い、注意と資源を拡散させる。空港での停止は乗客と貨物の移動を遅らせ、原子力施設での警戒は通常運転に慎重さを強いる。目に見えにくい小さな機体が、管制、警備、通信という異なる系統に同時に負荷をかける構図は、コストの非対称性を生みやすい。対策の鍵は、検知から識別、無力化、証拠化までの流れを短く保つことにある。
今回、原子力施設の運転に影響が出なかったことは救いだが、空域の管理は常に確率のゲームだ。見逃しのリスクと過剰反応のコスト、その間に横たわる判断の幅をどう詰めるか。ベルギーで続く試行は、域内の他空港やエネルギー施設にとっても、次の標準作法を形づくる材料になっていくはずだ。
これからの焦点
当面の焦点は3つある。第1に、発生源の特定と背後関係の解明だ。第2に、空港・原子力・軍施設の監視を統合する常設の指揮所と通報網の整備である。第3に、抑止と摘発の実効性を高める制度設計だ。飛行禁止空域の罰則や即応の基準を磨き、現場の裁量を支える法的な裏付けを厚くすることが、時間との競争を優位にする。
リエージュの貨物は世界のサプライチェーンと結び、ドールの電力は生活と産業を下支えする。各国の支援が交わる現場で、運航と運転は静かに再開した。変化の兆しは、まだ小さい。
