デンマーク各地で無人機目撃、空港一時閉鎖

デンマーク各地の空で無人機の目撃が相次いだ。北部オールボー空港では空域への侵入が確認され、一時閉鎖に追い込まれた。首都圏のコペンハーゲン空港も週明けに同様の事案で運航を止めており、空港の安全運用に突発的な脅威がのしかかっている。捜査は国家情報機関や国防当局と連携して進み、欧州の空港警備が抱える限界も浮かび上がった。

夜空を横切った無人機、オールボーで続いた緊張

北ユトランド警察は、オールボー空港上空で複数の無人機が長時間にわたり飛行したと明らかにした。最後に確認された飛行は2025年9月25日 07:54で、警察は「広い範囲を数時間飛行した」と説明している。無人機の無力化には至らず、操縦者の拘束にも結びついていないが、空域から離れたことを確認したうえで、空港の運用は再開可能との判断を示した。種類や飛行目的は特定されていない一方、地上からも視認できる灯火があったとの目撃が寄せられており、情報提供の呼びかけが続く。現場には制服警察が多数展開し、物的・電子的な手がかりの収集に着手したという。

ユトランド半島南部でも同様の通報が重なった。地域警察は複数の空港や軍施設の上空で無人機の報告を受理したとしており、夜間の航空計画への影響を注視しながら関係機関と分析を進めている。いずれの地点でも、現時点で無人機の飛行意図は明らかになっていない。空域のクリアランス確認を優先し、運航に直接の障害が出ない範囲での対応が続いた。

首都空港も停止、100件超の通報が押し寄せる

コペンハーゲン空港では、警察が大型の無人機を2〜3機確認したとして、滑走路の運用を停止した。停止が始まったのは2025年9月23日 03:26で、未明にかけて運航が段階的に再開された。空域閉鎖の間、数十便が迂回し、空港内外の乗客は足止めを強いられた。周辺の航空路は深夜帯の機材・乗員ローテーションにも余波が及び、再開後もしばらく遅延や欠航が尾を引いた。

コペンハーゲン警察は、事件の翌日までに無人機やそれに類する物体に関する通報を100件超受け取ったと説明した。捜査は情報機関や国防当局と連携し、監視カメラ映像や空港周辺の航跡データ、さらには海上の船舶動静まで照合する徹底ぶりだ。警察は、現時点で市民の安全が脅かされた形跡はないと強調しつつ、運航事業者と連絡を密にして状況把握を進めている。

見えてきた「探知はできるが、落とせない」現実

今回の一連の事案は、探知網の発達に比べて無人機対処の現場オプションが限られる現実を映す。民間空港の周囲で能動的な無力化手段を用いるには安全上の制約が大きく、結局は「見つけたら止める」が既定路線になりやすい。夜間、灯火を点けた無人機が空域に入れば、当局は滑走路運用を止め、警察が地上と空からエリアを洗い、空域がクリアになるまで待つしかない。だからこそ短時間でも閉鎖が広域の遅延につながる構造がある。

一方で、デンマーク政府は抑止力の底上げに舵を切っている。9月17日には、長距離精密兵器の導入方針を初めて掲げ、欧州の安全保障環境が長期にわたり厳しさを増すとの認識を示した。政府は、地上配備の防空力強化に続く「一段深い」選択だと位置づけ、領空・重要インフラ防護の考え方を拡張している。空港という生活インフラを守る現場は、こうした国家レベルの投資と、日々の運用判断の積み重ねでしか支えられない。

無人機の正体や意図が見えないまま、空の運用は止めざるを得ない。だが、今回の対応で少なくとも安全側への判断は速く、被害の連鎖は抑えられた。捜査の行方はなお不透明だが、当局は市民に平静を求めつつ、映像や目撃情報の提供を呼びかけている。夜空に現れた小さな影は、空港の安全をどう守るかという古くて新しい問いを、北欧のハブにあらためて突きつけた。