ベルギー核基地上空に謎のドローン　防衛網の脆弱性が浮上

2025.11.03

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ベルギー北東部の空が静まり返った夜、軍用機の咆哮もない上空を、複数のドローンが長く漂っていた。2025年11月2日までに、クライネ・ブローゲル空軍基地の周辺で相次いで目撃され、テオ・フランケン国防相は翌朝までの対応状況を「基地を狙った偵察」と位置づけた。欧州各地で続く不可解な飛行は、対ドローン防衛の脆さと、核抑止を担う拠点の守りの難しさを露わにしている。

基地上空で何が起きたのか

目撃が重なったのはベルギー・リンブルフ州ペア市のクライネ・ブローゲル空軍基地だ。2025年11月2日までに「大きめで高高度を飛行する」複数機のドローンが報告され、少なくとも1機は上空に長時間とどまったとされる。フランケン国防相は、狙いはF16の所在や弾薬配置など「高度な戦略情報の確認」にあったと述べ、通常の上空通過ではないと強調した。現時点で操縦者は特定されていない。

現場では妨害電波を用いるドローン対策装置が投入されたが効果は限定的だったという。ヘリコプターと警察車両が追跡したものの、機体は数キロ北方で見失った。軍情報機関を含む捜査が続き、基地側は既存の探知システムで得られた画像などの解析を進める構えだ。対処の手詰まり感がにじみ、関係機関は警戒の引き上げを急いでいる。

同基地はベルギー国防の中核とされ、F16を運用しつつ、数年内にF35への更新が進む見通しだ。一部報道によれば、長年にわたり米国の核兵器が配備されているとの観測もある。核抑止の要衝で起きた不可解な侵入は、抑止力の裾野である日常の警戒体制と技術装備の更新が追いついているのかという問いを突きつける。

欧州で相次ぐ不可解な飛行

今回の出来事は孤立した事案ではない。10月以降、ベルギー南部のマルシェ＝アン＝ファメンヌやドイツ国境近くのエルゼンボルンでも不審なドローンが確認され、国内の空軍拠点や空港周辺での目撃報告が続いた。欧州の他地域でも空域侵犯やドローンの侵入が相次ぎ、同盟各国の緊張は静かに高まっていると映る。

フランケン氏は「標的を絞った明確な任務だった」との見方を示しつつ、犯行主体の断定は避けている。一方で先週には、国家関与の可能性に言及し、欧州の安全保障環境が変質しているとの危機感をにじませた。過剰反応は避けつつも、複数拠点での連鎖的発生は偶発とは言い切れないとの空気が広がっている。

夜間の上空に点滅する微かな光は、現場の隊員にとって日常の訓練で想定する「対象」とは質を異にする。撃墜が難しく、電波妨害も万能ではない小型無人機は、探知から無力化までの一連のプロセスに新たな負荷をもたらす。防空の地図は、今や大型航空機中心の時代から細密な低空・低速の脅威管理へと塗り替えられつつあるとみられる。

「偵察」という動機と、追いつかない備え

今回の一連の飛行について、フランケン氏はF16や弾薬の所在確認などを狙った「偵察」だと説明した。意図が情報収集にあるのだとすれば、基地の運用計画や対空体制の穴を探る「リハーサル」の色合いも否定できない。対照的に、破壊を伴う攻撃意図は現時点で確認されておらず、侵入の継続性こそが最大のリスクという構図が浮かぶ。

政府内では対ドローン装備の拡充が急がれる。フランケン氏は、短期で5,000万ユーロ規模の新規導入と、中長期で5億ユーロの投資を提案する考えを公にし、対処能力の底上げを訴えた。だが、現場で投入された妨害装置が届かず効果を発揮できなかった事実は重い。機材の更新に加え、運用の連携や判断権限の整理も避けて通れない課題である。

核抑止に関わる拠点で起きた小型無人機の「静かな侵入」は、地続きの日常に溶け込む新しい脅威の姿だ。目に見えにくい空の綻びをどう塞ぐか。欧州の空でいま問われているのは、装備の多寡だけでなく、抑止と透明性、そして平時運用の知恵をどう両立させるかという難題なのかもしれない。