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首相官邸の会議室で人の出入りが途切れず、書類の束が机に置かれていく。2025年11月7日、高市早苗首相は新政権で初の経済安全保障推進会議を開き、2022年から段階的に施行された経済安全保障推進法の改正検討を指示した。供給網や医療インフラの弱点に先回りして投資し、成長と安全を同時に底上げする狙いだという。政府は有識者の議論を経て、来年の通常国会への提出を視野に走り出した。
見直しの狙いと進め方
会議で首相は、新たなリスクへの対応を迅速かつ強力に進める方針を示した。制度の骨格は維持しつつ、運用で露わになった課題を手当てする発想に軸足を置く。サプライチェーンの途切れを防ぎ、医療やエネルギーといった基盤の安全度を高めることが柱に据えられる見通しだ。
見直しの工程は、有識者会議での論点整理から始まる。所管府省だけでなく現場の事業者や自治体の声を拾い、実効性の高い条文とガイドラインに落とし込む。政府は提出時期として来年の通常国会をにらむとし、準備作業を前倒しする構えを示した。
同法は施行後の運用状況を踏まえた見直しを想定してきた経緯がある。今回の指示は、その時期を迎えたことへの応答でもある。制度の枠内で可能だった支援と規律の再配分を検討し、過不足の是正に踏み込むかどうかが焦点になる。
強化対象はどこか
政府が優先度を上げるのは、国内外をつなぐ供給網の結節点だ。調達の偏りや物流の遮断に備え、重要物資の生産・保管・代替の各段でボトルネックを可視化する。医療インフラでは、機器やデータの保全を含むセキュリティ水準の底上げが俎上に載る見込みだ。
あわせて、海外との連携を強める案件への後押しも議論の射程に入る。友好国との共同投資や技術協力など、相互の安全と繁栄につながる枠組みをどう制度に位置づけるかが問われる。資金・人材・時間の制約があるなかで、優先順位の明確化が成否を分ける。
会議の場では、現場での運用負担を軽くしつつ、リスク兆候を早く捉える仕組みの必要性も共有された。過度な規制はイノベーションを細らせるが、緩すぎれば脆弱性を広げる。規律と支援をどう組み合わせるか、調整の妙が問われる局面である。
広がる経済安保の土台づくり
今年は安全保障関連の情報保全をめぐる新たな制度も動き始めた。政府は重要な経済安保情報の取り扱いに関する枠組みを整え、官民の連携を前提にした環境づくりを進めている。今回の法見直しは、そうした情報面の整備と車の両輪として、産業・基盤側の耐性を高める位置づけになる。
一方で、経済運営の舵取りそのものも変化している。成長を下支えするための投資や政策会議の人選には、積極的な姿勢がにじむ。財政・金融・規制の三枚の札を重ね合わせつつ、現場に届く優先順位をどう描くか。経済安保の枠内にとどまらない総合力が試される段階に入った。
会議室を出た職員の腕には新しい配布資料の束が挟まれていた。紙の重さはまだ小さいが、制度の手当てと投資の選び方しだいで、先の景色は変わる。省庁の敷居をまたぐ連携や企業の判断まで視線が届くかどうかが、次の一手の重さを決めていくように見える。
