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財務省の会議室で、担当者が分厚い資料をめくりながら新しい減税案を説明している。政府が2026年度税制改正で検討する「設備投資促進税制」は、企業の国内投資を増やすための切り札として位置づけられる。投資額の一部を法人税から直接差し引ける仕組みや、資金繰りの厳しい企業向けの即時償却を組み合わせ、日本に工場や研究拠点をとどめようとする狙いがある。
企業投資を呼び戻す新たな減税の仕組み
原案では、一定の条件を満たす設備投資を行った企業が、投資額の8％を法人税額から差し引ける税額控除を受けられるとされる。米国の高関税で対米輸出が落ち込んだ企業については優遇を厚くし、控除率を15％まで引き上げる案も盛り込まれた。制度は5年間の時限措置とし、減税規模は年間5000億円程度を見込むなど、規模も大きい。
対象となるのは利益率15％超の設備投資計画で、製造機械やソフトウェア、工場建屋などが含まれる。政府の事前ヒアリングでは、AIや半導体、造船、量子技術など17の戦略分野向け投資が約8割を占める見通しだ。企業は税額控除の代わりに投資額全てを初年度に経費計上する即時償却も選べる。2014年には投資額5％を控除する租税特別措置が3年間実施され、国内設備投資は80兆円から87兆円へ増加したとされる。
世界で競う投資優遇と日本の課題
こうした新制度の背景には、各国が投資優遇策を競い合う現実がある。米国では設備投資費用の全額を即時に経費とできる恒久法がすでに導入され、企業は大型投資の採算を立てやすくなった。ドイツも将来の法人税率引き下げを含む約460億ユーロ規模の減税を決め、国内への工場誘致を急ぐ。日本が同程度のインセンティブを示せなければ、新たな半導体工場や研究拠点が海外に流れるとの懸念が広がる。
日本には既に、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制などの優遇策がある。現行では、中小企業が省エネ設備などで炭素生産性を一定以上高める計画の認定を受ければ、特別償却か最大14％の税額控除を選べる。新たな設備投資促進税制は環境分野に限らず戦略分野全体を対象とし、利益率で投資を選別する点が特徴だ。複数の減税メニューの中で、企業はどの制度を組み合わせれば資金繰りが最も楽になるか試算を重ねることになりそうだ。
数字で語られる税制の先には、どこに工場を置きどの分野に人材を振り向けるかという企業の長い時間軸の選択があり、その針をわずかに動かす政策の重みが静かに残る。
