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ブリュッセルの空気が冷え込み始めた24日、欧州委員会はTikTokとメタ（インスタグラム、フェイスブック）に対し、巨大IT規制「デジタルサービス法（DSA）」違反の暫定的見解を示した。研究者へのデータ開放が不十分で、有害コンテンツの実態把握を妨げていると指摘した格好だ。最終決定次第では、世界売上高の最大6％という重い制裁金が現実味を帯びる局面と映る。
研究データへの扉が開かない
欧州委は、両社が「研究者に対する公的データへの十分なアクセス」を提供する義務に反していると暫定認定した。外部の研究者が公開投稿や相互作用を広く収集・分析できなければ、プラットフォーム上のリスクを定量的に把握できない。誤情報の拡散経路や未成年者への有害露出の実態検証が遅れ、対策の妥当性評価も空洞化しうる構図だ。
DSAは、社会に系統的な影響を与えうる巨大サービスに透明性を義務づけ、研究目的でのデータ提供を定めている。現時点で確認されている範囲では、申請手順の煩雑さや提供範囲の狭さ、APIの機能制限などが、研究の再現性と網羅性を損ねるとの指摘が重なる。独立検証が滞れば、健全な市場監視が揺らぐとの危機感が広がっている。
欧州委は過去にもデータアクセスの不備に関する予備的見解を他社へ示してきた。透明性の底上げは一企業の善意に委ねないという姿勢が貫かれている。今回の暫定判断もその延長線上にあり、研究者が「見える化」するための扉を確実に開くよう、制度の実効性を問う狙いがにじむ。
メタに突きつけられたもう一つの課題
メタについては、研究データに加え、違法コンテンツをユーザーが簡易に通報できる仕組みや、削除・凍結に対する異議申立てを実効的に行える仕組みが不十分だとの暫定判断も示された。複雑な導線や曖昧な表示が、通報の完遂や救済の行使を妨げているとの見立てである。
通知・削除の流れが複雑であれば、児童性的虐待資料やテロ関連といった違法投稿の早期把握は難しくなる。通報に至るまでのクリック数や説明の明確さは、現実の発見件数と直結する。見えにくいUIや戻りにくい画面遷移は、実態としての抑止力を弱める。欧州委の問題意識は、運用の細部に宿る利用者体験の歪みへ向かう。
異議申立てが機能しないなら、誤った削除や過度な制限を是正できず、表現の自由にも影が差す。DSAは「簡潔で効果的」な救済経路を求めており、企業側が提示するポリシーの文言と、実際のボタンや画面の動線が一致しているかが問われる。機能があっても使えなければ、ないのと同じだという厳しい視線が向く。
手続きの行方と揺れる攻防
今回の見解はあくまで暫定であり、両社には反論と是正の機会がある。今後、欧州委が最終判断で違反を確認すれば、世界売上高の最大6％の制裁金に加え、具体的な是正措置の命令が重なる可能性がある。企業の応答と追加資料、技術的改善の進捗が、判断の重みを左右するとみられる。
一方で、データ提供とプライバシー保護、研究の必要性とセキュリティ確保という複数の価値がせめぎ合う。どこまで公開すれば再識別の危険を避けつつ、社会的な検証を可能にできるのか。欧州委は手続の中で技術的・制度的セーフガードも見直し、実効性と権利保護の均衡を探るとみられる。
巨大プラットフォームの規律は、運用の細部に落ちた瞬間に意味を持つ。研究者がアクセスし、ユーザーが通報し、誤りを正せる――当たり前の動線が当たり前に動くこと。それが確かめられるまで、欧州の監督は続く。ルールを画面の奥まで浸透させられるか。各社の次の一手が試されている。
