本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。
袖をまくった腕に細い針が入り、小瓶に赤い液体が満ちていく。欧州連合の環境政策を担う閣僚や高官24人が自らの血液を差し出し、PFAS汚染の現実を可視化した。19カ国から集まった参加者全員からPFASが検出され、半数は健康影響が懸念される濃度だったという。規制強化を急ぐEUが、強まる産業界の反発を前に世論の背を押す狙いがにじむ出来事である。
閣僚24人にPFAS、半数が健康基準超え
結果が公表されたのは2025年10月7日。欧州環境事務局とケムセックが協力し、各国の環境担当の閣僚やEU機関幹部ら24人の血液を分析した。対象はPFOAやPFOS、PFHxSなど13種類で、被験者の多くから複数のPFASが見つかった。全員が汚染の当事者であることを示す光景が浮かぶ。
注目は濃度だ。HBM4EUが示す健康基準値は、PFOA・PFOS・PFHxS・PFNAの合計で1ミリリットルあたり6.9ナノグラムとされる。今回、24人のうち12人がこの基準を上回った。規制や使用禁止の対象になって久しい物質がなお体内に残り、持続性の高さが改めて突きつけられたといえる。
デンマークのマグヌス・ホイニケ環境相は、自身の血液から4種類のPFASが見つかったと明かし、胎児への影響や内分泌かく乱、肝障害、発がん性の疑いに言及してEU全体の行動を訴えた。環境担当のジェシカ・ロズウォール欧州委員も6種類のPFAS検出を受け、より強い対策に取り組む決意を語った。政治の中枢にいる当事者の言葉は、抽象論に留まらない重みを帯びて響く。
規制強化へ、欧州委は泡消火剤の使用制限を決定
EUの手はすでに動き始めている。2025年10月3日、欧州委員会は泡消火剤へのPFAS使用を段階的に制限する措置を採択した。REACH規則に基づく新たな制限で、長年の汚染源とされる用途に網をかける。議会と理事会の審査も経たうえで、官報掲載の20日後に発効し、用途ごとに12カ月から最長10年の移行期間が設けられるとされた。
委員会は、制限がなければ毎年約470トンのPFASが環境中へ放出され続けると試算する。土壌や水、ひいては飲料水や食品への経路が遮断されない限り、人体からPFASが消えにくい現実も変わらない。PFAS不使用の泡消火剤はすでに市場にあり、移行期間は安全を損なわずに代替へ切り替えるための「猶予」であると映る。
ロズウォール委員は、人と環境を「永遠の化学物質」から守るうえで大きな一歩だと強調した。火災対応の現場では実効性と安全性の両立が不可欠だが、規制の骨格はそこを見据えている。官民の準備と投資が進み、現場の運用に無理が出ない移行設計になっているかが、この先の検証点となる。
“包括規制”の行方、産業界の反発と世論のはざまで
EUは個別規制に加え、PFAS全体を束ねて制限する包括規制の立案を進めている。2023年に示された案は広範な意見募集が行われ、域内外の関連業界から多くの意見や懸念が寄せられたとされる。現時点で確認されている範囲では、詳細設計を巡って調整が続いており、影響評価や移行可能性をどう織り込むかが焦点だ。
一方で、環境団体は規制の抜け穴を警戒し、消費財に限らない幅広い用途での早期フェーズアウトを求める。今回の血液検査は、そうした主張を社会に伝えるための強いメッセージであり、政治的パフォーマンスの色合いを帯びつつも、汚染の持続性と不可逆性を映し出した。規制の強度をめぐる綱引きは、科学的根拠と社会的受容の両立を問いかける。
欧州では規制に加え、汚染企業の責任を問う訴訟の動きも広がりつつある。米国では大型和解が積み上がり、欧州でも住民や自治体が損害賠償を求める事例が増える兆しがあるとみられる。供給網の広がりを考えれば、日本を含む多国籍企業にも対応強化の圧力が及ぶ可能性は高い。規制の最終形と執行の実効性、そして「だれが費用を負担するのか」という難題が、これからの主戦場になる。
