EU、メタのWhatsApp内AIを独禁調査　自社優遇の有無を精査

※記事を視覚化したイメージであり、実際の事象とは異なります。

2025.12.05

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欧州連合（EU）は12月4日、米メタがメッセージアプリ「WhatsApp」に組み込んだAI機能と、その利用ルールを巡り、新たな独占禁止法調査を開始した。企業やAIスタートアップが日常的に使う通信インフラ上で、どこまで自社AIを優遇できるのか。急拡大する生成AI市場で、公正な競争と利便性を両立できるのかが焦点になっている。

利用企業と新興AIに広がる不安

今回の調査対象になっているのは、WhatsAppの企業向けサービス「WhatsApp Business Solution」を巡るメタの新方針だ。欧州委員会によると、メタは2025年10月の規約変更で、AIを主たるサービスとして提供する事業者がこの仕組みを使うことを原則禁じた。新規のAI提供者には25年10月から、既存の提供者には26年1月15日から全面適用されるとされる。

これにより、チャットボットを通じて顧客とやり取りしてきたAI企業は、WhatsAppという巨大な窓口へのアクセスを一気に失いかねない。実際、欧州の複数のAIスタートアップが、自社のアシスタントが利用者に届かなくなると欧州委に苦情を申し立てたと報じられている。中小企業の側から見ても、これまで使ってきたAIボットが突然WhatsAppで動かなくなれば、顧客対応の手段を急ぎ探し直す必要が出てくる。

イタリアではこれとは別に、競争当局がメタのWhatsAppへのAI組み込みを独自に調査している。同国当局は、25年3月から検索バーなどに「メタ AI」が組み込まれたことで、利用者が半ば自動的に同社のAIを使うよう誘導されていると問題視してきた。加盟国レベルでの懸念が先行していたところに、今回はブリュッセルがEU全域（イタリアを除く）を対象に本格調査へ踏み込んだ形だ。

EU競争当局が見る「支配力」とルールの選択

欧州委員会は、メタの新方針がEU競争法に違反する恐れがあるとして、正式な調査を立ち上げた。焦点は、メッセージアプリ市場で強い立場にある企業が、自社のAIサービスを優遇しつつ、他社のAIがWhatsAppを通じて利用者に届くのを実質的に妨げていないかどうかだ。調査対象はEU27か国にアイスランドなどを加えた欧州経済領域全体に広がるが、すでに自国調査を進めるイタリアは除外されている。

メタの方針では、「AIが主たる機能」のサービスはWhatsApp Business Solutionの利用を禁じる一方、カスタマーサポートなど付随的な用途でのAI活用は認められている。表向きはシステム負荷への対応と説明されているが、結果として一般利用者と直接対話する汎用AIチャットボットは締め出され、自社の「Meta AI」だけがWhatsApp上で存在感を保つ構図になるとの指摘がある。

注目されるのは、今回の案件がデジタル市場法（DMA）ではなく、従来型の独禁法に基づく調査として位置づけられている点だ。クラウドやアプリストアではDMAを使って大手プラットフォームの行動を縛る動きが目立つ一方、WhatsAppのケースでは、個別行為が競争を排除していないかを丹念に検証する道を選んだ。EUの競争担当副委員長は、AI市場で取り返しのつかない競争制限を生まないよう、早期の介入可能性も示唆していると各紙は伝えている。

巨大プラットフォーム時代のAI競争、問われる「囲い込み」の線引き

メッセージアプリは、利用者にとっても企業にとっても日常の連絡網となっており、その上でどのAIアシスタントが使えるかは、実質的にAIへの入口を左右する。WhatsAppで第三者のAIボットが使えなくなれば、中小企業はウェブサイトのチャットや別アプリへの誘導など、新たな導線を整えるコストを負うことになる。日本企業でも、欧州顧客とのやり取りをWhatsAppに依存している例は少なくなく、他人事ではない。

AIスタートアップの側から見れば、巨大プラットフォームのAPIに乗ることで一気に利用者を獲得できる一方、運営企業の方針ひとつで主要な流通経路を失うリスクも抱えている。今回、欧州委に苦情を寄せた小規模プレーヤーは、自社サービスが技術面では競合し得ても、チャットアプリへのアクセスが断たれれば勝負の土俵にすら立てないと訴えている。EUがどこまでプラットフォームに「開放性」を求めるかは、今後のAIビジネスモデルを左右しそうだ。

EUはすでにAI法で安全性の枠組みを整えつつあり、競争政策でもデジタル大手への監視を強めてきた。WhatsAppを巡る今回の調査は、その2つの流れが交わる象徴的な事例と言える。最終的な判断がどうなるにせよ、メッセージアプリの支配力を背景に自社AIをどこまで組み込めるのかという線引きは、他のプラットフォームや各国規制当局にとっても重要な参照点になる。巨大基盤に依存しながらAIを活用する世界で、誰がどこまでリスクとコストを負うのかが静かに問われている。