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ルクセンブルクの朝、外相理事会の会場前に冷たい風が走った。欧州連合の対外政策を担うカラス上級代表は、ハンガリーが受け入れ準備を進めるプーチン露大統領の訪欧に苦い表情を見せ、ブダペスト発の「和平」構想へ警戒感をにじませた。米国の動きは歓迎するとしつつ、当事者であるウクライナを抜いた合意は成り立たないという原則を再確認した形だ。第19弾の対ロ制裁協議も本格化し、欧州の空気は緊張を帯びている。
ブダペスト会談の兆しと欧州のためらい
2025年10月20日、ルクセンブルクで開かれたＥＵ外相理事会は、ロシアの侵攻が長期化する戦場の現実を直視しつつ、外交の窓をどうつなぎ留めるかに議論を割いた。米国のトランプ大統領がブダペストでプーチン大統領と近く会談する意向を示し、舞台は一気に動き始めたと映る。だが、欧州の視線は期待と不安の狭間に揺れる。
カラス氏は理事会の議論を主導し、「ウクライナはすでに無条件停戦に応じる用意があるが、ロシアは本気ではない」との認識を示した。米国の仲介努力を支持する一方で、プーチン氏が譲歩に向かうのは圧力が効いていると感じた時だとの見立ても語った。会談の場が整っても、力学が変わらなければ前進は難しいという現実が浮かぶ。
他方で、ブダペストを巡る力学は複雑だ。トランプ氏は会談の開催に前向きで、ハンガリー政府も受け入れに前のめりだが、ＥＵ内では法と原則の面で火花が散る。被害者であるウクライナの不在は受け入れ難いという声が強く、ゼレンスキー氏の関与なしに和平を語ることへの違和感が広がっている。欧州のためらいは、政治だけでなく法の秩序にも根を張る。
ＩＣＣの逮捕状と「訪欧」の重み
プーチン氏には国際刑事裁判所の逮捕状が出ている。各国の義務や引渡し手続、豁免の解釈など、法的論点は多岐にわたる。欧州の中でハンガリーは独自の判断をにじませるが、逮捕状の対象者がＥＵ加盟国を訪れることの是非は、単なる儀礼の範囲を超える重みを帯びる。訪欧そのものが政治と法の境界線を試す行為と映る。
カラス氏は会場前で、米国の影響力がロシアを交渉の席に着かせ得ると評価したうえで、和平の枠組みにウクライナ当局者の直接関与が不可欠だと強調した。被害者を置き去りにした「合意」は長続きしないという直感である。欧州が重んじるのは、力より法、単独より多国間という筋目であり、この原則はブダペストでも揺らがないとみられる。
一方で、ハンガリーの国内事情は単純ではない。独自外交を誇示する政府は対露対話の窓口を自任するが、欧州の多くはロシアの侵攻が続く現実を直視する。逮捕状の存在は会談の「演出」を難しくし、開催実務にも法的リスクを呼び込む。招く側、迎える側、そして見守る側の計算が交錯し、会談の絵姿はなお定まらない。
第19弾制裁と「影の艦隊」対策、今週の焦点
同日の外相理事会では、ロシアへの圧力を高める手段として第19弾の制裁策が俎上に載った。採択はこの日には行われず、各国が細部の詰めを続ける構図だ。議論の柱は軍需関連の流入遮断に加え、ロシア産原油輸出を支える「影の艦隊」への対処強化である。制裁の網を海上輸送の現実に合わせて編み直す作業が進む。
エネルギー施設への攻撃が再燃するなか、理事会ではウクライナの送電網保護や冬支度支援も協議された。非常用機材の確保やガス供給の段取り、越冬に向けた復旧資材の国際調達が課題に浮上している。制裁と支援を同時に積み上げることで、戦場のコストを上げつつ市民被害を抑えるという二正面作戦がにじむ。
ブダペスト会談が前に進むのか、あるいは制裁の輪が先に締まるのか。欧州の次の一手は、法の原則と現実のバランス感覚にかかっている。カラス氏が示したのは、外交の扉を閉ざさずに圧力を緩めないという難しい舵取りだ。今週の欧州は、会談の段取りと制裁の文言、その両方がニュースの核心になりそうだ。
