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潮の匂いが残る甲板に、金属の軌条が光る。中国の最新空母「福建」は、電磁カタパルトで艦載機を射出し、固定翼機を回収する映像を相次いで示してきた。一方で、甲板配置が発着の同時運用を縛り、実戦のテンポを鈍らせる可能性が浮かぶ。元米海軍将校は、米空母の約6割のペースにとどまると見立てた。技術の飛躍と運用上の制約、その間に横たわる現実が見えてくる。
甲板に宿る期待と疑問
福建の存在感は映像の瞬発力に象徴される。発艦待機の機体列、緑の上衣が合図を放ち、電磁カタパルトが呼気のように加速を与える。2025年9月22日、中国側はJ-15T、J-35、空警-600の三型が福建での初の電磁射出と着艦に成功したと発表した。固定翼早期警戒機の起降は、空母打撃群の目と耳をもたらす出来事であり、作戦像の輪郭を一段濃くしたと映る。
同12日には、福建が台湾海峡を通過し南海での試験任務に向かったと伝えられた。推進や電力、そして甲板運用まで複数の要素を束ねる大規模試験が続く。甲板に立つ整備員の所作は洗練の途上にあり、射出と回収の連鎖をどう高めるかが次の焦点となる。映像が雄弁に語るのは、技術実証の節目を越えた先に、現場の練度という長い坂が続くという現実である。
現時点で確認されている範囲では、福建は就役が近いとの観測が広がる。ただ「就役」と「戦力化」は別の旅路である。新型艦載機のデータ収集、甲板上の動線設計、エレベーターや格納庫からの搬出入の律動まで、細部の最適化が問われる段階に入ったとみられる。期待の熱は高いが、甲板には慎重さも漂う。
「6割」指摘の内訳
元米海軍将校の分析が注目を集めたのは、甲板の幾何学がテンポを左右するという指摘である。福建の着艦エリアは中心線から約6度の角度で伸び、米空母の9度に比べ余白が小さいとされる。前方の2本のカタパルトと着艦滑走路の間隔が詰まり、着艦機が通過する短い時間、発艦レーンが「塞がる」場面が増えるという読みが広がった。
分析を示した退役大佐カール・シュスター氏は、福建の発着テンポはニミッツ級の約6割にとどまると見立てた。もう一人の元飛行士は、前方カタパルトが長い可能性や、着艦エリアが艦首側の機体待機帯に近接しすぎている点を挙げ、帰還機の再配置スペースが窮屈になると述べた。甲板での衝突リスクを避けるため、作業のペースを落とす以外にない局面が生まれるという示唆である。
こうした見立ては公開映像と写真に基づく技術的推定であり、運用設計の改良や手順の最適化で緩和可能な余地も残る。一方、角度やレーン配置は艦の骨格に通じるため、抜本的な変更は容易ではない。大規模波状発着を要する実戦想定で、どこまで「同時性」を担保できるか。指摘は、福建の強みと弱みを同時に照らす。
中国側の前進と残る距離
福建の満載排水量は約8万トン級と伝えられ、非原子力ながら電磁カタパルトの導入で、遼寧・山東の制約を超える投射力を得たとみられる。2025年9月22日の発表は、電磁射出と阻止索回収の両輪が噛み合ったことを示す。固定翼早期警戒機を甲板運用に組み込めた意味は重く、海上の目標捕捉と艦隊管制の「滞空時間」を押し広げる。
それでも、戦力化の要は甲板のオーケストレーションに尽きる。発艦列、回収列、燃料・兵装補給、エレベーターの昇降周期まで、秒単位で最適化する営みが続く。福建の甲板構成が同時性に弱いなら、波状運用を段階化し、CAPの交代や打撃波の形成を時間差で刻む作法が必要になる。運用は設計をなだめ、設計は運用を縛る。両者のせめぎ合いが続くと映る。
米海軍は依然として空母群で先行し、ニミッツ級は約9万7000トン級の余力で高密度運用を支える。他方、中国は三隻体制への移行で、遠海での常続的な存在感を目指す段に入った。福建は近く就役との観測もあるが、現時点で確認されている範囲では、試験と認証の工程がなお続く。甲板に鳴る轟音の裏で、テンポをめぐる試行錯誤が続いている。
