核融合電力を“先に買う”時代へ　Helical Fusionが国内初の契約を締結

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2025.12.09

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まだ存在しない発電所からの電気を先に買う――そんな契約が日本で初めて結ばれた。ヘリカル型核融合炉の実用化を目指すスタートアップHelical Fusionは12月8日、2030年代に稼働を計画する商用炉で生み出す電力を、愛知県の食品スーパー大手アオキスーパーに供給する電力売買契約を結んだと公表した。核融合由来の電力購入契約は国内初で世界でも4件目とされる。未来の電気をいま予約する動きは、核融合ビジネスと私たちの暮らしに何をもたらすのだろうか。

スーパーが「未来の電気」を押さえる理由

アオキスーパーは、愛知県を中心に生鮮食品を扱う店舗を多数展開し、照明や冷蔵設備などで大量の電力を消費している。再生可能エネルギー導入や省エネ設備の更新だけでは、長期的な脱炭素の道筋が見えにくい中で、将来の選択肢として核融合電力に早い段階から関わることを決めた形だ。今回の契約で、商用炉が稼働した際に供給を受ける電力量などの詳細は明らかになっていないが、自社の電源ポートフォリオを「次世代エネルギー」で一部でも構成するという意思表示だといえる。

Helical Fusion側から見れば、まだ建設されていない商用炉に対し、具体的な需要家が名乗りを上げた意味合いは大きい。核融合プラントの建設には、研究開発費とあわせて巨額の投資が必要で、投資家や金融機関は「本当に売り先があるのか」を厳しく見る。小売企業との電力売買契約は、発電開始後の売上の一部をあらかじめ示す「出口戦略」の一つとなり、資金調達や政策支援を引き寄せる材料になる。

アオキスーパーにとっても、これは単なる話題づくりでは終わらない。契約が前提とする商用炉は、ヘリカル型と呼ばれる方式でプラズマを閉じ込める核融合炉であり、Helical Fusionは国立研究所発の技術を引き継ぎながら、超伝導マグネットや炉内構造といった要素を企業連携で開発している。素材メーカーや電機メーカーとの協業で「つくる側」の体制が整いつつある中で、スーパーという身近な小売が「使う側」に加わったことで、原材料から生活の現場までをつなぐサプライチェーンの輪郭が少し見えてきた。

核融合ビジネスの「出口」と国家戦略のあいだ

そもそも核融合は、太陽と同じ反応を地上で制御しようとする技術で、高い安全性とCO2排出ゼロ、安定供給の同時実現が期待されている。一方で、世界のどこでもまだ商用発電所は動いておらず、技術と資金を長期に投じるリスクの大きさが課題になってきた。日本政府は2025年に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、民間スタートアップの挑戦を後押しする方針を示しているが、公的支援だけで事業化に踏み切ることは難しい。今回の契約は、将来の電力市場で核融合電気に対価を払うプレーヤーが存在することを、具体的な形で示した点に意味がある。

海外では、米国などで核融合スタートアップが大手IT企業や電力会社と将来の電力購入契約を結ぶ動きがすでに報じられており、今回の日本での契約はそうした流れの中で世界4例目と位置づけられている。日本企業も、プラント建設やエンジニアリングの分野で海外の核融合企業に出資するなど、国境を越えたエコシステムづくりに関わり始めた。Helical Fusion自身も、高温超伝導マグネット用の材料供給や電源装置の調達で国内大手と組み、さらに成長支援プログラムを通じて海外展開を模索している。需要家との契約は、こうした技術・資本・政策のネットワークを束ねる「最後のピース」の一つでもある。

もっとも、契約が結ばれたからといって、2030年代に予定通り商用炉が動き、約束どおりの価格で電力が供給される保証はない。実証装置の成果や安全規制の設計、他の再生可能エネルギーとのコスト競争など、不確実性は多い。それでもなお、小売企業がリスクを承知で将来の電気を予約する背景には、「成功すれば自社と社会の脱炭素に大きなリターンがある」という期待がある。今回の一歩が、核融合発電を机上の研究から市民が使う電気へと近づける起点になるのか、それとも象徴的な契約にとどまるのか。今後の実証と制度づくりが、その答えを左右する。

スーパーが「未来の電気」を押さえる理由

核融合ビジネスの「出口」と国家戦略のあいだ

参考・出典