本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
会場の空気が一瞬引き締まった。上海で記者団と向き合ったドイツのラース・クリングバイル財務相は、言葉を選びながらも「欧州が負けるわけにはいかない」と繰り返した。自由な貿易の重要性を認めつつも、相手の産業が手厚い補助を受けているなら、自国の市場を守る防波堤が要ると訴えたのである。メルツ政権発足から約半年、同政権で初の閣僚級の訪中となった今回の旅は、ドイツが中国との距離感をどう調整するのかを映す場ともなっている。
補助金と鉄鋼、独財務相が語る「負けられない競争」
クリングバイル氏が危機感をにじませたのは、象徴的な産業である鉄鋼だ。中国で国家の後押しを受けた鋼材が安価に欧州へ流れ込めば、環境投資の負担を抱えるドイツの製鉄所は価格競争で押し込まれかねない。氏は、気候変動対策と雇用維持の両立に取り組む国内の鉄鋼企業が、不公正な条件のもとで淘汰される事態だけは避けたいと強調した。背景には、ＥＵが中国を含む鉄鋼輸入品に追加関税を課す案を検討するなど、産業政策と通商政策を交錯させながら対応策を探る現状がある。
この数日前、北京での会合でも同氏は、中国の過剰生産が解消されなければ欧州として行動せざるを得ないと伝えている。過剰な供給は鉄鋼だけでなく、太陽光パネルや電気自動車など、将来の成長分野にも広がる懸念があるためだ。レアアースや半導体材料をめぐる輸出規制も、ドイツ企業の調達リスクとして意識されている。そうした圧力を踏まえ、氏は中国にのみ依存しないサプライチェーンづくりを進めるべきだと訴える。ただ同時に、中国側から資源供給を続けるとの説明も受けたとして、対立一辺倒ではない対話の余地もにじませた。
ＥＵの結束と安全保障、ファーウェイ排除が映す転換
インタビューでは、欧州側の足並みについても質問が飛んだ。クリングバイル氏は、中国をめぐる議題がＥＵ財務相会合のＥＣＯＦＩＮや、ユーロ圏財務相が集まるユーログループで頻繁に俎上に載ると明かした。ＥＣＯＦＩＮとは全加盟国の財務相が経済・財政を協議する場であり、ユーログループは共通通貨を持つ国が政策を擦り合わせる場だ。氏は、中国を前に欧州がばらばらのメッセージを送れば交渉力を失うとして、「一つの声」で臨む必要性を繰り返した。ドイツ連邦議会が対中貿易政策の見直しに向けた専門家委員会を設けたのも、そうした枠組みの一環といえる。
安全保障分野では、メルツ政権が打ち出した通信網からのファーウェイ排除が象徴的だ。既存の５Ｇネットワークから同社製機器を順次入れ替え、将来の６Ｇでは中国製部品を使わない方針に転じた。クリングバイル氏は「特定企業を狙い撃ちするのではなく、全てのプロバイダーに同じ安全基準を課す判断だ」と説明し、純粋なセキュリティ問題だと強調する。この決定は基地局の更新費用を押し上げる一方で、欧州メーカーにとっては新たな受注機会になり得る。市場開放とリスク管理、その両立を模索する欧州の姿が、通信インフラという具体的なかたちで浮かび上がる。
上海で交わされた一つ一つの言葉は小さいが、開かれた市場を守りながら何を守り、どこまで譲るのかという、静かな綱引きの輪郭を少しずつ描きつつある。
