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香港政府で序列3位とされる陳茂波(ポール・チャン)財政官が、12月中旬に予定していた日本訪問を取りやめていたことが12月6日、関係者の証言で明らかになった。日本側への連絡は、香港の高層住宅で11月26日に起きた大規模火災より前だったという。背景には、高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁に反発する中国の立場に、香港が歩調を合わせたとの見方が出ている。香港と日本の交流は、中国本土の対日姿勢にどこまで左右されるのかという問いが浮かぶ。
揺らぐ日港ビジネス交流 突然消えた財政官の講演機会
今回中止となったのは、東京のホテルで12月17日に予定されていた「昼食講演会」への出席だ。香港貿易発展局が主催し、日本と香港の貿易拡大を掲げた場で、陳財政官が基調講演を務めることになっていた。だが関係者によれば、香港側は11月下旬の火災前の段階で訪日取りやめを日本側に伝え、イベント自体も中止された。準備を進めていた日本企業や金融関係者にとっては、香港の経済運営の方針を直接聞く貴重な機会が失われた形だ。
陳財政官は、香港政府で財政政策を統括するトップであり、行政長官や政務官に次ぐ「ナンバー3」と位置付けられる要職にある。11月末には、香港が「資本の安全な投資先として存在感を増している」と自ら公式ブログで訴え、世界の投資家に対し香港市場の安定性をアピールしていたとジェトロのビジネス短信は伝えている。この直後に予定されていた日本での講演中止は、単なる一出張の見直しにとどまらず、香港がどの相手と対話の場を持つかを精査していることをうかがわせる。
一方で、香港と日本の結び付きは深い。日本は香港住民にとって有数の旅行先であり、多くの香港企業が東京や大阪に拠点を置き、日本企業も香港をアジアの金融・物流拠点として活用してきた。今回の訪日中止そのものが、すぐに民間の往来を止めるわけではないが、「ハイレベルの経済対話さえ政治情勢で左右される」という印象を、ビジネスの現場に残すことは避けられない。
さらに重なるのが、香港社会を揺るがした高層住宅群の大火災だ。新界・大埔地区の公営住宅団地で11月26日に発生した火災では、報道ベースで150人を超える犠牲者が出たとされ、原因や責任を巡る捜査が続いている。この惨事を理由に外遊を見直してもおかしくない状況だが、実際にはそれ以前に訪日中止が決まっていたことが分かったことで、「内政の危機」ではなく「対日メッセージ」としての意味合いがより強く意識されつつある。
中国に歩調を合わせる香港 台湾情勢が決定を左右
発端となったのは、高市首相の台湾有事を巡る国会答弁だ。高市氏は11月7日の衆院予算委員会で、中国が台湾に武力侵攻した場合、日本の集団的自衛権を行使する「存立危機事態」となり得るとの考えを示した。その後も撤回しない姿勢を明言しており、 Bloombergなどによれば、中国側はこれを「極めて誤った発言」と強く批判している。台湾有事をめぐる日本の発信が、従来の「曖昧さ」から一歩踏み込んだものだと受け止められた。
中国本土の反発に続き、香港も対日姿勢を硬化させてきた。共同通信の配信記事などによると、香港政府は11月下旬から、在香港日本総領事館との公的交流の多くを停止し始めたとされる。香港政府投資推進局が日本との企業交流イベントから日本側関係者の欠席を求め、結果としてイベント自体が延期された例も報じられている。また、台湾の中央通信社や地元メディアは、治安当局が日本渡航時の安全に注意するよう住民に呼びかけたと伝えた。
ロイター通信によれば、李家超(ジョン・リー)行政長官も11月末の会見で、日本の首相発言が「中国と日本の交流を損なった」と述べ、中国の外交方針を支持する考えを示した。香港が日本総領事館との交流を事実上停止しているとの報道について直接は認めなかったものの、「国家の威信と香港市民の利益に沿う対応を取る」と強調している。陳財政官の訪日中止は、こうした一連の流れの中で、中国本土の対日措置に合わせる動きの一つと位置付けられる。
かつては、日中関係が尖閣諸島問題などで悪化した際も、「一国二制度」のもとで香港政府が日本との公的接触を大きく減らす場面は目立たなかった。だが2020年の香港国家安全維持法の施行以降、中国の統制が強まり、外交・安全保障を巡る香港の裁量は縮小している。今回、経済政策を担う財政官の訪問まで政治的判断で見送られたことは、「対日関係で香港が独自の余地を持ちにくくなっている」との認識を、国内外に広げかねない。
政治リスクとどう向き合うか 問われる日本と香港の選択
日本と香港の経済関係は、資本市場や貿易、観光、人材交流まで多層的だ。香港は日本企業にとって中国本土や東南アジアへの玄関口であり、多くの金融機関が地域統括拠点を置いている。他方、香港側にとっても日本は重要な投資先・旅行先であり、航空路線や観光産業に大きな比重を占める。そうした実務の土台の上に成り立つ交流が、首脳の一言や安全保障を巡る発言によって揺さぶられている構図だ。
今回の訪日中止は、香港側の一方的な政治的メッセージに見える一方で、日本側にも課題を突き付ける。台湾情勢に関する発信を強める日本政府は、その影響が経済・文化交流の現場にまで及ぶことをどこまで織り込んでいるのか、という点だ。香港政府が中国本土と一体の対応を取る傾向が強まるなか、日本企業や自治体は、政府間チャンネルが細くなっても民間レベルの対話をどう維持するか、戦略の練り直しを迫られる。
一方で、香港の側でもジレンマは大きい。中国に近い立場を鮮明にすることで中央政府への忠誠を示すことができる半面、「国際金融センター」としての開放性や中立性への信頼が傷つけば、長期的には経済に跳ね返る可能性がある。陳財政官自身が、海外投資家に向けて香港の安全性と魅力を繰り返し訴えてきただけに、日本訪問の中止は、そのメッセージとの間に微妙なねじれを生んでいる。
高層住宅火災の被災者支援や原因究明という大きな課題を抱えながら、香港政府は同時に対日関係にも難しい舵取りを迫られている。経済と安全保障、中央と地方、政治とビジネス。それぞれの力学が絡み合う中で、今回の訪日中止は「一つの象徴的な出来事」にすぎないかもしれない。それでもなお、台湾情勢を巡る緊張が続く限り、日港双方が政治と日常の交流をどう切り分けるのかが、静かに問われ続けるだろう。
