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学歴を巡る問題で前市長が失職した静岡県伊東市で、後任を選ぶ市長選が12月7日に告示され、史上最多の9人が名乗りを上げた。返り咲きを目指す田久保真紀前市長(55)、自民党推薦の元市長・小野達也氏(62)、国民民主党推薦の元市議・杉本憲也氏(43)らが激しく競り合う構図だ。10月末から市長不在が続き、市政の停滞への不安が広がるなか、有権者は14日の投開票で何に一票を託すのかが問われる。
止まらない電話と空席のトップ 揺れる温泉地の現場
伊東市では、学歴問題が表面化した7月以降、市役所に寄せられた苦情や問い合わせが累計で1万件を超えたと報じられている。選挙を巡るニュースが続き、観光や福祉といった日々の相談窓口にも影を落としていると職員は明かす。市の基幹産業である観光業者からは、「政治のゴタゴタよりも、まず来訪者を安心して迎えられる体制を」との声も紹介されている。
10月31日に2度目の不信任決議が可決されて田久保氏が失職して以降、市長の椅子は空いたままだ。副市長や教育長も不在で、予算編成や観光振興策など重要な判断が先送りになる場面が続いたとされる。度重なる選挙で市民の関心は高まる一方、「誰がなるか」より「今止まっている事務を早く動かしてほしい」という、生活に根ざした焦りもにじむ。
一方で、市政に直接参加できない子ども世代も、混乱の行方を黙って見ているわけではない。市内では、市立図書館の在り方や学校統廃合、商店街のにぎわいづくりなどをテーマに、若い世代が意見を出し合う場が設けられてきた。学歴騒動に注目が集まるほど、こうした身近な課題への議論は後景に追いやられがちであり、「政治の混乱を早く終わらせてほしい」という思いは、大人だけに限らない。
前市長VS元市長VS新人 9人乱立の背景
今回の市長選には、前職の田久保氏、元職の小野氏、元市議の杉本氏に加え、新人を含む無所属の候補が計9人並ぶ。市長選としては今年5月に続く2度目で、候補者数も過去最多だ。前回は新人だった田久保氏が約1万4千票を得て現職の小野氏を破ったが、そのわずか数カ月後に学歴問題が表面化し、状況は一変した。
問題の発端は、市の広報誌などで「東洋大学法学部卒業」と紹介されていた最終学歴が、実際には除籍だったと判明したことだ。市議会は百条委員会を設置して経緯を調査し、田久保氏が「卒業していないと知った時期」を巡る証言は虚偽だと結論づけたうえで、地方自治法違反容疑で刑事告発する方針も決めた。こうした経過を踏まえ、市議会は2度にわたり不信任決議を可決し、2回目の決議で田久保氏は自動的に失職した。
それでも田久保氏が出直し選に名乗りを上げたのは、自身の政策や実績で再評価を求める狙いがあるとみられる。一方、元市長の小野氏は、混乱の収束と安定した行政運営を前面に掲げて支持拡大を図る。元市議の杉本氏は、中堅世代として刷新を訴え、国民民主党の推薦も受ける。観光振興や物価高対策、市役所のガバナンス強化など、各候補が掲げる政策には共通点も多いが、「学歴問題への向き合い方」と「議会との関係をどう築くか」が、最も鮮明な違いとして浮かび上がっている。
法定得票数と再選挙のリスク 地方政治の信頼をどう立て直すか
9人が競り合う今回の選挙では、どの候補も有効投票総数の4分の1に届かず、法定得票数を満たさない可能性が指摘されている。その場合、公職選挙法に基づき再選挙となり、市民は再び投票所へ足を運ぶことになる。議会解散を伴う市議選、市長の失職、そして出直し市長選と続いてきた一連の過程は、「政治不信」を強めるだけでなく、選挙管理や開票に携わる現場の負担も大きい。
一方で、選挙は混乱を終わらせるための唯一のルールでもある。観光都市としてのブランドを守りつつ、市役所への信頼をどう回復していくのか。今回の市長選は、学歴問題に対する評価だけでなく、「説明責任をどこまで求めるのか」「議会と首長が対立した時、どのように折り合いをつけるのか」といった、地方政治の在り方そのものを問う機会でもある。14日の投票箱が閉じた後も、伊東市が選ぶ道筋は、全国の自治体にとって他人事ではないだろう。
