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映画館のスクリーンにかかるはずだった新作ポスターが、そのまま出番を待たされている。2025年11月17日、中国のメディアが、日本のアニメ映画の公開延期と日本への団体旅行の中止が相次いでいると伝えた。高市早苗首相の台湾有事に関する発言をきっかけにした日中の緊張が、外交の場だけにとどまらず、子どもたちが楽しみにする映画や、旅行会社のツアー商品といった日常の楽しみにまで影を落とし始めている。
中国で日本アニメの公開延期が相次ぎ、ヒット作にも不安広がる
中国の報道によれば、延期が明らかになったのは「映画クレヨンしんちゃん 超華麗！灼熱のカスカベダンサーズ」と「はたらく細胞」の少なくとも2作品だという。当初は前者が12月6日、後者が11月22日に封切られる予定だったが、新たな上映時期は示されていない。配給側や当局から詳しい理由は公表されておらず、宣伝が進んでいた作品だけに、楽しみにしていた親子連れやアニメファンは戸惑いを抱えたまま待つ状況になっている。
一方で、中国では11月14日に人気シリーズの最新作「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」が公開されたばかりだ。公開からわずか4日間で興行収入が4億元近くに達し、日本発アニメ映画の需要は依然として大きいことをうかがわせる。それだけに、今回の延期が一時的な判断にとどまるのか、それとも他の日本映画にも及ぶのか、映画関係者の間では先行きへの警戒感がにじむ。政治と切り離して語られることの多かったポップカルチャーが、外交上の摩擦の中で揺らぎ始めている。
団体旅行の中止と過去の報復措置、観光と外交が交差する
影響はスクリーンの外にも広がっている。北京の旅行会社によると、中国当局が日本への渡航を控えるよう呼び掛けたことを受け、日本向けの団体ツアーにはキャンセルの連絡が相次いでいるという。担当者は、問い合わせてきた客に対し「今は日本行きは勧めにくい」と伝えており、販売現場では政治情勢を踏まえた説明が欠かせなくなっている。観光業界にとっては、コロナ禍からの回復途上で、再び予測しにくいリスクに直面する形となった。
こうした動きの背景には、高市首相が国会答弁で「台湾有事が日本の存立危機事態に該当し得る」と述べ、自衛隊による集団的自衛権行使の可能性に踏み込んだことがあるとされる。この発言は、台湾防衛をあえて明言しない米国の「あいまい戦略」にも影響しかねないとして、中国側が強く反発してきた経緯がある。中国政府は日本への渡航を慎重にするよう国民に注意を促し、日本政府は「日本側の認識とは相いれない」との立場を示している。外交上の応酬が続く中で、その余波が映画館や旅行会社といった、市民の生活に近い場所で具体的な形を取り始めた格好だ。
中国政府が政治的な不満を文化・観光分野に及ぼした前例としては、在韓米軍に高高度防衛ミサイルシステム（THAAD）が配備された際の対応が知られている。当時、韓国の映画やドラマ、音楽などの流入が大きく制限され、多くの作品が中国市場から姿を消した。この措置は2016年ごろから始まり、その後も完全には解かれていないとされる。今回、日本の映画や団体旅行が揺さぶられる構図は、そうした過去の対応を想起させるものだ。政治判断の波が、国境を越える作品や人の往来にどこまで広がるのか、当事者たちは慎重に成り行きを見つめている。
