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秋雨に濡れた防衛省の玄関で握手が交わされたのは2025年9月5日。日豪の防衛協力は、空での「人と機械の連携」に一歩踏み込もうとしている。すでに航空自衛隊は偵察用無人機グローバルホークを運用しているが、豪州が進める無人戦闘機は性格がまったく異なる。違いの核心を、任務と運用の思想から見ていきたい。
空自の「グローバルホーク」と何が違うのか
まず押さえたいのは、空自が運用するのは米空軍系統のRQ-4「グローバルホーク」である点だ。記号が示す通りRは偵察、Qは無人機を意味し、武装は持たない。高度約6万フィートを長時間飛び続け、広域をくまなく監視し、画像や電波情報を収集する。空に大きな耳と目を据える装置、と捉えると輪郭が浮かぶ。
機体の強みは持続性だ。30時間超の滞空で、海や国境線に沿った動きを粘り強く追い続ける。運用も特有で、離着陸を担う要員と、遠隔地で任務を管制する要員が分かれている。発見・記録・伝送に集中し、戦闘には踏み込まない。だからこそ、偵察の信頼性と安全な運用設計が最優先に置かれていると映る。
一方、豪州が主導する無人戦闘機は、有人機と組んで前線に入ることを前提とする。狙いは「見に行く」ではなく「勝つために動く」だ。有人機のセンサーを拡張し、囮や護衛、場合によっては攻撃役も担う。任務の中心がISRから制空・制圧の一部へと移ることで、機体の設計思想や求められるAIの処理もまるで異なる。
日豪が見ている「連携無人機」の姿
現時点で確認されている範囲では、日米豪は「連携無人機」と自律システムの分野で歩調を合わせ、空でのヒューマン・マシン・チーミング（HMT）の共通コンセプトを打ち出した。人が最終判断を握りつつ、無人機がセンサーや電子戦、迎撃支援などを分担する。誰に有利なのかと問えば、人的損失の抑制と、限られた機数の火力増強に資する点が大きい。
豪州の無人戦闘機は、有人戦闘機や早期警戒機とデータをやり取りし、編隊として動くことを本旨とする。個体の強さではなく、群れとしての総合力で空域を押さえる発想だ。任務ごとに搭載を切り替える柔軟性や、危険領域に先行してセンサーを突っ込む役回りも想定される。有人機の“長い腕”として働く姿が浮かぶ。
日豪の大臣会談でも、こうした分野の協力拡大が話題の中心に据えられたとみられる。連携無人機の運用は、単独の技術よりも、指揮系統やデータ連接、訓練パッケージまで含めた包括設計が肝になる。日本にとっては、既存の偵察無人機運用で培った通信・安全管理の知見を、戦闘任務の連携運用へどう翻訳するかが問われる局面に入ったといえる。
変わる空の戦い方と、日本の次の一歩
なぜ今、無人機なのか。背景には、戦闘機の高価格化と人員の確保難がある。すべてを高性能な有人機で賄う発想は現実的でなくなりつつある。有人機の一撃一撃を支える僚機として無人機を編成し、任務を最適配分する。これが次世代の空戦の前提になり、作戦の立体感を変えていくとみられる。
もっとも、運用は技術だけでは回らない。AIの自律性と人の関与の度合い、目標識別の信頼性、誤作動時の安全措置、サイバー対策、電波妨害下の回避行動など、ルール作りは続く。訓練体系も鍵だ。パイロット、システム要員、指揮官が同じ前提で動けるよう、戦術・標準手順・シミュレーション環境を含む“共通言語”の整備が不可欠になる。
日本にとっての意味は二つある。ひとつは、偵察無人機で確立した安全・通信・管制のノウハウを、戦闘任務の連携無人機に拡張する道筋を描けること。もうひとつは、将来の戦闘機群と無人機群を一体運用する前提で、予算と人員の配分を再設計できることだ。偶然ではなく必然の流れとして、空の戦い方の転換点が近づいている。
