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韓国・慶州で31日に始まるAPEC首脳会議の周辺で、日本と中国が高市早苗首相と習近平国家主席の初会談を31日に行う方向で最終調整に入った。複数の政府関係者が29日に明らかにした。戦略的互恵関係の再確認や、東シナ海・経済分野の懸案をめぐる対話再起動が焦点となる。会場の緊張と期待が、秋の乾いた空気の中に静かに混じる。
慶州の空気と舞台が整う
古都・慶州の国際会議場には各エコノミーの旗が並び、報道陣のケーブルが床を這う。APECの首脳会議は31日から11月1日まで予定され、関係閣僚会合を含む一連の会期は27日から1日まで続く見取り図である。今年のテーマは「Building a Sustainable Tomorrow」。合言葉のように掲げられた「Connect, Innovate, Prosper」が、経済と技術、社会の糸を結び直す合図に映る。
外務省は28日、高市首相が30日に出発し、慶州での首脳会議に出席すると発表した。併せて、各国首脳との個別会談を行う予定と記した。詳細な相手や時刻は示していないが、首脳外交の密度を高める意志は明確である。議場近くでは厳重な動線管理が敷かれ、各国の先遣隊が分刻みで動く。会期が進むほど、舞台は整っていく。
日中が向き合う論点
仮に31日の初会談が実現すれば、最大の争点は安全保障と危機管理になる。首相は台湾海峡の平和と安定の必要性を訴え、尖閣周辺を含む東シナ海での活動活発化に懸念を伝える構えだ。スパイ活動容疑などで中国に拘束された邦人の早期釈放も、優先課題として取り上げるとみられる。対話の目的は相互非難ではなく、リスクを減らす回路を太くすることに尽きる。
経済面では論点がさらに層を成す。中国のレアアース輸出管理の動きや、重要物資の供給網、データやAIをめぐるルール形成まで課題は広い。東京電力福島第一原発の処理水放出に伴い停止している日本産水産物の輸入についても、再開に向けた協議の進展を確認したい意向がある。双方が「建設的かつ安定的な関係」を重ねて言葉にできるかが、実務の歯車を回す合図になる。
揺れる報道と政府発表のあいだ
現時点で確認されている範囲では、政府発表は高市首相の出席と二国間会談の実施予定までにとどまる。一方で一部報道は、31日に習主席との初会談を実施する方向で最終調整と伝えた。首脳動静は安全上の理由で直前まで伏せられることが多く、当日の流れで変動する余地もある。確定情報と観測が交錯するのが、国際会議の常である。
それでも、首相が首脳級の意思疎通を重視している姿勢は明瞭だ。仮に会談が実現すれば、高市政権下での対中対話の起点となり、戦略的互恵関係をどの水準で再起動できるかが問われる。国内では経済安全保障と地域の安定に直結する議題として注視が広がる。政権の外交手並みを占う節目が、慶州の一室で形を帯びる。
一歩がもたらす波紋
会談で「建設的かつ安定的な関係」の重要性を共有できれば、企業や市場にとっても予見可能性が増す。APECの理念がうたう連結性とイノベーションの強化は、日中の経済協力の再設計にも通じる。希土類や半導体材料の供給、データ移転やAIガバナンスなど、抽象的に見えるテーマほど、実務的な接点を持つ。合意文言より継続的な接触の枠組みが要る局面である。
もちろん、個別懸案が一挙に解ける局面ではない。それでも、首脳間の直通回線を確かにし、外相や局長級の対話を定例化できれば、摩擦を管理する能力は上がる。年末までの作業部会設置や、海空連絡メカニズムの運用点検といった具体策が次の宿題として浮かぶ。慶州での一歩が、地域秩序の微妙なバランスに静かな波紋を広げていく。
