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会議室を出た2人の局長が、硬い表情のまま廊下を歩き始める。北京の中国外務省庁舎で2025年11月18日に行われた日中局長級協議の直後、その数秒間を切り取った映像が、中国のSNSで一気に広がった。画面には、両手をポケットに入れたまま話す中国側の劉勁松アジア局長と、その隣で頭を傾ける日本の金井正彰アジア大洋州局長の姿が映る。この場面は「日本側が頭を下げている」と解釈され、高市早苗首相の台湾有事発言に反発する中国世論の空気と重なりながら、外交の最前線をめぐる新たな火種になっている。
廊下の数秒が拡散 映像がつくる「優位」の物語
問題となった映像では、劉局長が前を見据えたまま歩き、金井局長は通訳の声に耳を澄ますように上体を前に傾けている。日本政府は、金井氏は発言内容を聞き取ろうとしただけだと説明するが、中国のSNS上では「日本の官僚が中国側の言葉に頭を垂れている」とする字幕や解説が添えられた。そこには、孫を諭す祖父のようだと揶揄する書き込みや、「後世に残る場面だ」と誇示するコメントが並び、映像そのものよりも、どう語られるかが前面に出ている。さらに、劉氏が身につけていた中山服風のスーツを、五四運動期の学生服になぞらえ、抗日運動の記憶と結びつけて報じる中国のネットメディアも目立つ。廊下という何の変哲もない場所が、歴史と力関係を織り込んだ舞台として描き直されているのだ。
こうした演出に日本側は違和感を強めている。両局長が立ち話をしていたのは、通常はカメラの立ち入りが認められていない区域だと日本政府は説明する。木原稔官房長官は2025年11月19日の記者会見で、撮影の段取りについて日中間で十分な事前調整がないまま記者が入ったとして、中国側に抗議したことを明らかにした。一方、中国外務省の報道官は、今回の場面について「中方が特別にメディアを手配したわけではない」と述べ、現場にいた記者の多くは日本メディアだと反論している。誰が撮影を主導したのかは当事者の主張が食い違うが、映像が片側に有利な物語として加工され、数えきれない端末の画面に並んだ事実だけは確かである。
台湾有事発言と平行線の協議 広がる情報戦の影
今回の局長級協議の背景には、高市早苗首相の国会答弁がある。高市氏は、台湾有事が起きれば日本の存立が脅かされる「存立危機事態」になり得ると述べた。存立危機事態とは、安全保障関連法で定められた概念で、日本と密接な関係にある国が攻撃され、日本の存続が危険にさらされる場合に限定して自衛隊が武力行使できるとする条件だ。この発言に対し、中国政府は「誤った対中認識だ」として連日強く反発し、政府報道官や国営メディアが相次いで批判コメントを発表した。18日の協議では、中国側が高市発言の撤回を重ねて求め、日本側は自国の立場を説明しつつ、中国総領事による過激なSNS投稿などにも改めて抗議したとされる。
しかし、主張はほとんどかみ合わないまま協議は終了し、表情をこわばらせた2人の局長が廊下に現れた。その直後に撮られた映像が、対話の成果ではなく力関係の誇示を映す素材として独り歩きしている構図は象徴的だ。中国側は、黄海での実弾射撃訓練の予告や、日本産水産物の輸入停止、文化交流イベントの延期など、安全保障から経済・文化に至るまで圧力を強める動きを重ねていると報じられている。日本側も国内世論に配慮しながら、対話継続と抑止力の強化を同時に進めざるを得ない。北京の廊下で交わされた短い言葉は、聞き取ることのできないままだが、その沈黙の周囲には、両国が積み重ねてきた緊張と不信の層が静かに折り重なっている。