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会議室を出た閣僚らの足が速まった。政府は2025年11月7日の閣議で、自衛隊の海賊対処行動と中東での情報収集活動の現行計画を1年延長し、期限を2026年11月19日までとする方針を決めた。エジプトのシナイ半島で活動する多国籍軍・監視団（MFO）司令部への自衛官派遣も、同年11月末まで延長する。小泉進次郎防衛相は会見で、国際社会の平和と安定への継続的な貢献を強調した。
決定の中身と延長の理由
延長対象は3件だ。ソマリア沖・アデン湾での海賊対処行動、中東地域での日本関係船舶の安全確保を目的とする情報収集、そしてMFO司令部要員の派遣である。前2件は既定の30日枠で毎年見直されてきたが、今回も延長後の期限まで継続が図られる。政府内では、航路の要衝で任務を止めれば抑止のほつれを招くとの見方が根強い。
背景には、事案の発生数が低位にある一方で、根本原因がなお残るという現実がある。沿岸国の統治や貧困、紛争の影響は途切れず、海上の警戒監視を緩めれば、脆弱な船舶が狙われる余地は消えない。日本は国際協調の枠組みの一員として、関係国の部隊と歩調を合わせ、航行の安全を確保する責務を負うという整理である。
中東の情報収集は、政府一体の航行安全対策の一環として続けられてきた。エネルギー供給と海上輸送に直結するため、現地の緊張が高まる局面ほど、海域の状況把握と船主・乗組員への助言が重要になる。延長決定は、外交努力と運用の両輪を保つための最低限の備えという位置づけだ。
海賊対処と情報収集の現場
現場の核は、ジブチの拠点を基盤にした警戒監視と護衛である。海自の護衛艦が航行ルートを見守り、航空部隊が広域を捜索して不審な動きを拾い上げる。遭遇の可能性があれば関係国や船会社と連絡を密にし、早めの回避や航路調整につなげる。小さな判断の積み重ねが、海上の静けさを保ってきた。
アデン湾は欧州とアジアを結ぶ海の動脈で、日々の貿易と生活物資の流れを支えている。単独で完結する任務はない。多国間の連携で役割を分担し、得られた情報を効率的に回す。日本の部隊は、現地の通信や通報の網に丁寧に入り込み、他国の艦や航空機と息を合わせることで存在感を保ってきた。
中東の情報収集は、武力を背景にした活動ではなく、海況や港湾、航路の安全に関する実務的な判断を後押しする。危険が高まる兆しを拾えば、商船への注意喚起や運航計画の見直しに活かされる。延長後の期限までに、緊張の波が幾度か押し寄せるとしても、地道な更新情報が船の舵取りを助ける。
影響と今後の見通し
延長により、船会社は運航リスクの予見可能性を確保できる。護衛や警戒の枠組みが維持されることで、保険や航路選定の判断がぶれにくくなる。一方で、現地の安定が直ちに進むわけではない。沿岸国の治安機関や司法の能力向上といった土台づくりに、国際社会が粘り強く関わる必要がある。
MFOへの派遣延長は、停戦監視と信頼醸成の場に日本が関与し続ける意味をもつ。司令部要員は現場の調整役として、日々の連絡や運用計画の最適化に汗をかく。表に出にくい役割だが、境界線の静けさを保つためには欠かせない。延長後の期限までに積み上がる経験は、のちの危機対応の土台にもなる。
小泉防衛相は「継続」を選んだ。抑止の糸を切らないこと、情報の目を閉じないこと、そして対話の場から離れないこと。海上の風景は変わりにくいが、見えないところで多くの判断が重なる。会見場のざわめきが遠のくころ、各部隊の当直は次のシフトに入っていた。静かな更新が、海路を支えている。
