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国会の答弁席で高市早苗首相が身を乗り出し、南鳥島の海底資源で日米の協力を進める考えを明かしたのは11月6日だ。深海6000mに眠るレアアースの開発で連携の具体化を探る。中国依存をやわらげ、供給網の揺れを小さくする狙いである。政府は年明けにも揚泥試験に踏み出す計画を示しており、長年の構想が具体化の段階へと歩を進める。
国会で示した方針、にじむ危機感
6日の参院代表質問で、首相は南鳥島周辺海域でのレアアース開発について「日米間の具体的な協力の進め方を検討する」と述べた。調達先の多様化を急ぐ姿勢を前面に出し、重要鉱物の安定供給を安全保障と産業政策の結節点に据える考えをにじませた。足元で市場の変動が続く中、協力の枠組みづくりを先送りしないという意思表示でもある。
今回の発言は、対外関係の動きと呼応している。世界的な競争の焦点になった希土類は、電動化やデジタル化を支える基礎素材だ。供給面の偏在が価格や在庫に跳ね返りやすく、各国の産業計画に微妙な足かせを残してきた。首相が「具体的な協力」を言葉にしたことで、外交と資源戦略を束ねる実務の工程が次の段階に入る。
現時点で確認されている範囲では、政府は対話の場を広げつつ、制度面と技術面の両輪で歩調を合わせる構えだ。民間の研究開発や実証に官が伴走し、相手国と役割分担を描く形が想定される。調達、精製、製品化までの長いサプライチェーンに目配りし、どこにボトルネックがあるかを見極める作業が続く。
年明けの深海試験、技術を確かめる段
政府は春の会合で、南鳥島海域での本格化に向け、深海6000mからレアアースを含む泥を吸い上げる揚泥試験に着手する方針を示している。試験は船上の設備と海底の採鉱機を接続し、揚泥の連続性や安全性を検証する段取りだ。遠隔操作や耐圧部材、配管の磨耗対策など、ひとつでも綻びが出れば全体の成立性が揺らぐため、工程の一つひとつに実機で確かめる段が設けられる。
年明けの海況は不安定になりがちだが、運用側は気象と海流の窓を丹念に読む。揚泥管の詰まりや流量の変化、粒径による選別効率の差など、現場でしか捉えられないデータは多い。採取そのものの実現性に加え、陸上での分離・精製の前段にどの程度の濃縮度で引き渡せるかが、採算の初期値を決める。計画は、技術を「動かす」ことで数字の輪郭を浮かび上がらせる狙いだ。
一方で、深海環境への配慮は前提である。濁水の広がりや底生生物への影響を把握するため、観測機器の同時運用が欠かせない。実証の段階で環境データを積み上げ、事後の評価と手順改善を繰り返すことが、制度設計の説得力を高める。技術と環境の両立をどう形にするかが、実装の速度を左右する。
中国依存の重さ、連携がもたらす余白
日本はレアアースの調達で中国への依存が長らく重かった。過去の輸出停止や規制強化の記憶は、企業の在庫設計や調達多角化の努力として積み重なっている。それでも電動車の磁石や半導体の工程、精密機器の部材など、需要の裾野が広がるほど不意の供給制約に弱い構造は残る。南鳥島という国産ポテンシャルを実証で詰める意味は、単なる自給の話にとどまらない。
日米の協力が現実味を帯びれば、鉱区の把握、採掘技術、精製能力、需要家とのオフテイクといった複数の段で分業の余地が生まれる。輸送や保険、環境基準の整合といった周辺領域まで視野に入れることで、供給の「途切れにくさ」が増す。市場は過度な期待にも失望にも振れやすいが、段取りが可視化されれば、価格や調達の見通しは少しずつ落ち着きを取り戻すだろう。
海は静かでも、甲板では準備の手が止まらない。揚泥管の一節が吊り上げられ、次の節へと繋がれていく。その反復の先に、資源をめぐる緊張の振れ幅が小さくなる未来があるかもしれない。
