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ナイロビの外務省前では、人影がせわしなく行き交う。2025年10月26日、ケニア外務省は、自国民が仲介者にだまされてロシア軍のための戦闘に勧誘され、ロシア各地の軍事キャンプで拘束されているとして警告する声明を公表した。人数や負傷の実態は示されておらず、政府は解放と帰国支援を急ぐとした。重い現実がにじむ発表である。
静かな警告が告げたもの
声明にはムサリア・ムダバディ外相の署名があり、現地で多くのケニア人が拘束状態にあると記した。外務省は先月にロシア当局と「重要な会合」を開き、解放と帰国の道筋を探ったとしている。具体的な人数や負傷状況は伏せられ、家族の安全確保を優先した慎重な姿勢がうかがえると映る。
同省は、仲介者がロシア政府との関係を装い、虚偽の情報や不正な手段で若者を渡航させ、知らぬ間に軍事作戦へ巻き込む手口を強く批判した。契約はロシア語で示され、内容を理解しないまま署名させられるケースがあるという。言葉の壁が命運を左右する現実が浮かぶ。
今回の発表は、国外での就労・留学を夢見た若者が危険と隣り合わせになる構図を直視させる。外務省は被害の把握と保護に動く一方、仲介者の実態解明に向けた情報収集も続けるとみられる。水面下での折衝が長期化する可能性も否定できない。
仕組まれた勧誘の手口
勧誘は生活の苦しさに付け込む形で始まることが多い。高給の仕事や学費免除、移住の道があるなどと囁き、旅費や書類の手配を一括で請け負うと持ちかける。だが渡航後に提示される契約は軍関連の労務や戦闘参加に直結し、拒めば旅券を取り上げられるといった圧力が伴う例も伝えられている。
外務省が名指しした「腐敗した冷酷な仲介者」は、政府や軍との関係をほのめかして信用を得る。SNSやメッセンジャーで募集し、紹介料を積み増す多層のネットワークを形成しているとみられる。弱い立場の若者ほど狙われ、家族が気づいた時には連絡が途絶える構図が広がっている。
一部報道によれば、9月末には渡航あっせんに関与した集団を警察が摘発したとの指摘もある。国内での取り締まりが強まるほど、勧誘は越境・匿名化へと移るのが常である。今回の声明は、国内対策と同時に渡航先当局との連携を強める必要性を示唆しているといえる。
広がる波紋と今後の焦点
外務省は先月の協議に続き、拘束場所の特定、本人同意の確認、集団送還の安全確保といった実務課題に向き合う。交渉には時間がかかり、情報公開にも限界が伴う。だが帰国後の医療・心理支援や再就労支援まで視野に入れねば、同様の被害は繰り返される恐れがあると映る。
ムダバディ外相はこれまでもロシア・ウクライナ戦争の長期化が食料とエネルギーに打撃を与えると語ってきた。今回の警告は、地政学の衝撃が「遠い戦場」からケニアの街角へと及んでいる事実を言外に示す。外交と国内政策をつなぐ総合対応が問われている。
現時点で確認されている範囲では、声明全文は公的サイトで公開されていない。だが政府系報道や当局者の発言からは、被害把握と保護の優先、仲介網の摘発、渡航前の情報提供強化という三つの柱が見えてくる。静かな一枚の声明が、社会の深層に広がる課題を照らしている。
