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白海に面したセベロドビンスクで2025年11月1日、ロシア海軍の新型原子力潜水艦「ハバロフスク」が進水した。ベロウソフ国防相が式に立ち会い、艦は今後の海上試験を経て配備に向かうとされた。同日、同相は砕氷哨戒艦「イワン・パパーニン」も視察し、北極圏の運用基盤強化を印象づけた。
白海の造船所で見えた新鋭艦の輪郭
薄曇りの湾内でクレーンの警笛が短く響き、巨大な艦体が静かに水へ降りていった。場所は造船企業セブマシュの屋内船台で、出庫から進水まで一連の儀式が進んだ。式典を統括したベロウソフ国防相は、海上国境の安全確保と世界の海における国益の保護に資する装備だと語り、長年の建造に携わった技術者や乗員に謝意を示したと伝えられている。
「ハバロフスク」は国防省の表現では、水中兵器とロボティクスの運用を想定したプラットフォームである。設計の詳細は公表が限られるが、海中での長時間行動や多目的任務を念頭に置く姿が浮かぶ。現時点で確認されている範囲では、同艦には一連の海上試験が残され、工場・国家試験の段階を踏む見通しだとみられる。進水は節目に過ぎず、性能確認の歩みはこれから始まる。
周辺では報道各社のカメラが並び、艦首に割られた瓶の破片が白い飛沫に紛れた。公開映像や船体の外観からは、静粛性や搭載システムの最適化を図った近年のロシア潜水艦の系譜が読み取れると映る。一方で武装や搭載機器の具体像には幅があり、専門家評価にも揺れがある。進水式は存在を示したにすぎず、実像は海上試験と運用実績の積み上げで徐々に輪郭を帯びるだろう。
北極圏を担う砕氷哨戒艦「イワン・パパーニン」
同じ日、国防相は艦船修理の拠点を訪れ、砕氷機能を備えた哨戒艦「イワン・パパーニン」を視察した。現地からの説明では、すべての海上試験に合格し海軍に引き渡された経緯が示され、運用部隊での活動を前提とした装備点検が続くとされた。現時点で確認されている範囲では、9月初旬に北方艦隊の本拠地で軍艦旗が掲げられ就役したと報じられており、氷海域の任務で存在感を増しているとみられる。
本艦は哨戒・曳航・補給支援・捜索救難をひとつに束ねる設計思想を持ち、厳しい氷況下でも船団の先導や港湾までの誘導を担う。ヘリコプター運用やモジュール化された装備の搭載余地が意識され、任務に応じた柔軟な構成が可能だとされる。軍用艦でありながら海上法執行や航路監視にも跨る性格を持ち、北極域の交通と安全保障を結びつける結節点として使われる姿が広がっている。
北の海では、気象と氷が任務の成否を左右する。砕氷哨戒艦の即応性は、物資輸送の護衛や遭難対応、資源開発の支援に直結する。そこに新鋭原潜の存在が重なると、日常の警備から戦略抑止まで層が厚くなる構図だ。就役した艦が運用で蓄えるデータは、後続艦の改良にも跳ね返る。技術と訓練の積み上げが、氷海という難環境での行動半径を静かに押し広げている。
進水と就役、その交差点にある意味
進水した「ハバロフスク」と、就役段階にある「イワン・パパーニン」。片や水面下での長大な行動を念頭に置く新型原潜、片や氷海の“日常”を支える多用途艦だ。性格は対照的だが、沿岸警備から外洋投射までの間を埋めるという点で補完関係にある。ロシアが白海沿岸で両者を同日に並べた事実からは、戦略抑止と日常運用の両輪を強調する意図がにじむと映る。
ただし、進水は配備の同義ではない。原潜は今後の海上試験で推進・静粛性・センサー統合など多項目を検証し、設計仕様を運用要件に合わせて詰める工程が続く。哨戒艦についても、氷況や任務プロファイルの違いに応じた運用データの蓄積が鍵となる。数値や性能の評価は時期と環境に強く依存するため、結論を急がず、公式発表と現場の報告を突き合わせていく必要がある。
白い息が風に流れる造船所の岸壁に、新しい艦影が加わった。静かな海面に残る波紋は短いが、極北の長い季節に重ねて読めば、そこに次の動きの予兆が見えてくるかもしれない。今はまだ、試験と運用の時間が静かに流れている。
