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薄曇りの空がのぞくマニラで、時計は忙しなく回った。小泉進次郎農相が2025年10月2日、東南アジア諸国連合（ASEAN）と日中韓の農相会合に出席した。自民党総裁選が最終盤に入る中でも公務を前に置き、ASEAN域内の食料システムづくりに日本の技術で関わり続ける姿勢を示した。滞在は17時間余りと短いが、輸出拡大の糸口を探る動きが随所ににじんだ。
短い外遊が映した優先順位
現時点で確認されている範囲では、小泉氏は10月1日夜に日本を発ち、2日にマニラで開かれたASEAN＋3の枠組みの会合に臨み、同日夜に帰国した。選挙戦の喧騒から一歩離れ、各国の閣僚と向き合う数時間に公務最優先の立ち位置が浮かぶ。谁に有利なのかという問いが脳裏をかすめるが、短期決戦の外遊は「政策で勝負」のシグナルとも映る。
ASEANと日中韓の農相会合（AMAF＋3）は、食料安全保障やサプライチェーン強靭化などを議題に毎年重ねられてきた枠組みである。小泉氏は、域内での農業・食料システム構築に向け、日本の技術協力を継続する考えを前面に出したとみられる。円滑な物流や衛生・検疫制度の整合、デジタル活用など、足腰を固める論点が広がっている。
会場の空気は淡々としているが、発言の行間には日本の立ち位置を再定義する狙いがのぞく。供給網の分散や気候対応が各国の共通課題となるなか、日本の強みである品質管理やスマート農業の知見をどう接続するか。外遊の時間は短いが、積み上げてきた協力の延長線上に新しい取引や制度連携を描く構図である。
テーブル越しに探った輸出の攻め筋
一部報道によれば、小泉氏は7か国の農相と個別に会談し、日本産ブドウの輸出解禁をめぐる協議を提起した。ブルネイなどからは和牛輸入への意欲も伝えられたという。品目や規制の壁は国ごとに異なるが、衛生証明やトレーサビリティの整備など、実務を積み上げれば扉は開く。会談はその起点を丁寧に探る場となったとみられる。
小泉氏は一連の日程を終え、「日本の農林水産物のさらなる輸出拡大の可能性を感じることができた」と語った。言葉の背景には、アジアの中間層拡大や高付加価値志向の波がある。品質で選ばれる日本産の強みを維持するには、残留農薬基準の相互理解や低温物流の拡充など見えにくい基盤投資が欠かせない。外遊の成果は制度と現場の両輪で測られる。
加えて、域内で進む食品安全や規格の連携は、越境取引の摩擦を和らげる。検疫条件の見直しや電子証明の導入が広がれば、果物や畜産品は一段と動きやすくなる。誰に有利なのかといえば、品質と信頼を積み上げる生産現場にこそ風が吹く。短い外遊の交渉は、その風向きを確かめる試金石になったといえる。
総裁選終盤、公務との両立をどう示すか
総裁選は最終盤を迎え、陣営の発信を巡る応援投稿依頼の問題に批判が残る中での外遊となった。一部報道によれば、小泉氏は移動の合間に態度未定の議員へ電話を重ね、支援を求めたという。2日夜に帰国すると、候補者が顔をそろえるインターネット討論番組へ直行した。政局と実務の綱引きは続くが、可視化されたのは「時間の使い方」である。
石破首相は就任後の会見などで、経済対策の実行や地方重視を前に進める方針を明確にしている。小泉氏は「閣僚は公務最優先との指示があった。両立できている」と強調し、総裁選の攻防と閣僚の責務の線引きを提示した格好だ。偶然か必然か、17時間余りの強行軍は、その言葉の実証実験としての意味合いを帯びる。
外遊は票読みの即効薬ではない。それでも、輸出や制度協力の積み上げを数字に換えることができれば、長い選挙後にも残る「政策の資産」になる。外交手腕の可視化はむしろプラスだという陣営の読みが当たるのか。最終盤の空気の中で、会談の一つひとつが静かに効いてくるとみられる。
