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潮風の抜ける小さな港町で、住民の声が低く重なっていた。離島や水源地をめぐる外国資本の土地取得が各地で話題となるなか、全国の地方議員が新たな有志の会を立ち上げ、国への法整備を求める動きが表面化している。安全保障と地域の暮らしをどう両立させるか。現場に近い政治の層から、国会にボールが投げ返された格好である。
地方議員が結束した理由
離島や重要施設の周辺で、土地の使い方が地域の安心に直結する場面が増えている。観光開発や事業再生が地域にもたらす利点がある一方、所有の透明性や利用の目的が見えにくい取引が続くと、住民は不安を抱く。現時点で確認されている範囲では、地方議員有志が全国的な連携を組み、外国人による土地取得の在り方に関する法整備と実態把握の強化を政府に求める構えを示している。
背景には、国の制度が整いつつも、現場で起きている細かな課題が置き去りになる懸念がある。固定資産税や生活インフラ、自然環境の維持管理といった自治体の責務に、所有や利用の実態が絡むためだ。地方議員は「規制の強弱」だけでなく、「誰が何のために使うのか」を可視化する仕組みづくりを求めているとみられる。実態の説明責任をどう果たすかが焦点に浮かぶ。
一方で、排外的な議論に流れる危険も常につきまとう。地域経済の活性化に寄与してきた外資の投資を萎縮させれば、雇用や観光の打撃にもつながりかねない。地方の現場からは、規制の精度と透明性の両立、そして個人の権利やプライバシーを守る運用ルールをセットで設計すべきだとの声が広がっている。地域の空気は揺れながらも、より丁寧な基準作りを求めているように映る。
法律は何を規制しているか
国は2022年に全面施行された重要土地等調査法に基づき、重要施設の周囲おおむね1kmや国境離島等に「注視区域」「特別注視区域」を指定している。区域内で施設の機能を阻害する行為が確認されれば、国が勧告や命令で是正を求める枠組みだ。2025年には区域指定の追加・変更が施行されるなど、制度は段階的に運用の幅を広げている。法の対象はあくまで「利用」であり、包括的な取得禁止ではない点が現在の骨格である。
数字にも動きがある。2023年度に重要施設周辺などで外国人や外国法人による土地や建物の取得が確認されたのは、20都道府県で土地174筆、建物197個と報告された。国籍では中国が最多とされる。これは規模の大小を問わず実際の取引が各地で進んでいることを示しつつ、同時に「どの場所で、どんな目的で」が政策判断の物差しになることを示唆する。自治体は地図とデータで現場を見通す必要がある。
一方、国会では既存法の運用強化に加え、広く土地の取得や利用の実態調査・計画策定を政府に義務づける枠組みを求める議員立法の提案も出てきた経緯がある。区域外であっても安全保障上の懸念が生じうる土地を俎上に載せ、外交上の対応まで含める構想だ。政府側も近時、立法措置を含む検討に言及しており、制度設計は次のラウンドに入っているといえる。地方と国の役割分担をどう描くかが問われる。
広がる不安と求められる透明性
離島の小さな入り江、山あいの水源、基地や自衛隊施設に続く道路。地域の人々が日々使う場所ほど、所有や利用の顔が見えにくくなるほどに不安は広がる。所有権や投資の自由は尊重されるべき権利である一方、用途が社会の安全とどう接するのかは公的な説明が要る領域だ。現時点で確認されている範囲では、地方議員の有志は高い透明性を伴う実態把握と、合理的な基準に立つ規制の整備を政府に要望する方針を示している。
制度の鍵は「線引きの明確さ」と「運用の丁寧さ」に尽きる。区域指定の合理性、取得や利用の届出基準、勧告・命令の対象や手続きの透明性、そしてプライバシーへの配慮。これらが具体化されて初めて、地域の安心と投資の促進が両立する。大切なのは、地域の実像を映すデータに基づき、住民の目線で対話を重ねることだ。地方からの提案は、国の制度に足りない「現場感」を補い、次の改善を促す梃子となりうる。
目の前の海は穏やかでも、社会の潮目は変わり続ける。所有の国籍や目的だけで事態を単純化せず、必要な規律と開かれた投資の両輪で地域の未来を描けるか。地方議員の結束は、その試金石である。国の制度が現場の納得感を得るまで、議論は続くとみられる。
