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リマ中心部の通りに催涙ガスが漂った。2025年10月16日夜、国会前の反政府デモが激化し、32歳の男性が銃撃で死亡、警官や市民、記者を含む100人規模が負傷した。就任間もないホセ・ヘリ新大統領への抗議が広がり、政権は捜査と治安対策の強化を掲げている。デモはZ世代を中心に拡大し、政治不信と治安悪化への怒りが結びついたと映る。
国会前で若者の怒りが噴き出す
国会議事堂前では金属バリケードが揺れ、若者らが「みんな出て行け」と声を上げた。花火や石が飛び、警察は催涙弾で応じた。赤い塗料を噴射する姿や、黒い旗を掲げるグループも見え、リマの中心は緊張に覆われた。もともと平和的に始まった集会は、夜が更けるにつれて衝突へと傾いたとみられる。
参加者の多くは10〜20代で、SNSを介して呼びかけが広がった。賃金や年金への不満に、長引く汚職疑惑や治安不安が重なった構図だ。若者たちは政治の停滞に苛立ちを募らせ、国会前に集う群衆のうねりは、世代的な反発が一気に可視化された瞬間を物語っていた。
現場では、警察官とデモ隊の双方に負傷者が相次いだ。装甲車のサイレンがこだまし、救急車が行き交う。緊急医療スタッフが負傷者を搬送する一方、参加者はスマートフォンで状況を記録し拡散した。街路に残る催涙ガスの匂いと砕けたガラス片が、一夜の激しさを伝えている。
揺れる権力移行と新大統領への視線
発端にあるのは政権交代の急展開である。2025年10月10日、国会がディナ・ボルアルテ前大統領の罷免を可決し、直後に当時の国会議長ホセ・ヘリ（José Jerí）氏が大統領に就いた。任期は来年7月の選挙までとされ、短期の移行政権を率いる立場だが、出足から厳しい逆風に直面しているとみられる。
ヘリ氏は退陣要求を退け、「国の安定を維持する責任がある」と強調したうえで、治安分野の立法権限付与を国会に求める考えを示した。内相は国家警察の包括的改革を打ち出し、取り締まりと組織の立て直しを進める方針を語った。治安悪化への強硬姿勢が、緊張の緩和に結びつくかは読めない。
一方で、ヘリ氏の周辺には過去の性暴行疑惑（不起訴で終了）や汚職をめぐる指摘がつきまとう。国会議員時代に、専門家が「犯罪対策を弱める」と批判する法案群に賛成した経緯もあり、若者を中心に不信は根強い。政権への視線は厳しさを増し、街頭の反発と政権の治安重視がぶつかる構図が浮かぶ。
数字が語る混乱、捜査の行方
死亡したのはエドゥアルド・マウリシオ・ルイス（32）で、検察当局は銃撃による死亡として捜査を開始した。現時点で確認されている範囲では、負傷者は警官や市民、記者を含め100人規模とされるが、負傷者内訳には幅がある。警官80人・記者10人などの報もあれば、警官89人・市民22人という集計も伝えられている。
国家警察トップは、負傷して搬送された警官が発砲に関与したと説明し、当該警官は職務から外されたという。逮捕者は十数人規模との報が出ており、治安当局と検察の調整が続く。ヘリ氏はXで死を悼み、「客観的に捜査する」と投稿した。責任の所在と指揮系統が焦点となりつつある。
2022年の抗議で多数の死者が出た記憶は生々しく、過度な実力行使への懸念が広がっている。権力移行の混乱、治安悪化への恐怖、そして政治不信が絡み合い、街頭に噴き出した怒りは一夜で収まりそうにない。次の週末、当局の説明と捜査の進展が、緊張の度合いを左右するとみられる。
