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フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2025年10月10日、セバスチャン・ルコルニュ氏を首相に再指名した。解散含みの政局膠着をほどく最後のカードであり、同氏には新内閣の編成と、13日までの2026年度予算案提出という難題が重なる。期限を逃せば、政府運営をつなぐ緊急立法の可能性が現実味を帯びる。政治の時計はすでに速まっている。
再任の一報、揺れるパリの空気
夜のマティニョン官邸前に冷たい風が通り、記者団のざわめきが戻った。ルコルニュ氏は同日夜、SNSに「この政治危機と不安定に終止符を打たねばならない」と記し、再任の受諾を明らかにした。疲れをにじませつつも、言葉の端々に急ぎの気配が漂う。彼の姿に、長い週末を前にした緊張の色が差した。
大統領府は10日に「首相に任命し、政府の組閣を付託した」と発表した。氏は9月の就任からわずか数週間でいったん辞任に追い込まれたが、数日の空白を挟み再び舵取りを託された格好である。短距離走の連続のような政権運営が続き、政治の地盤の脆さが改めて浮かび上がる。
野党の反応は激しい。極右・国民連合の指導部は「悪い冗談だ」と強く批判し、左派も再任人事に背を向ける。与党中道陣営内にも懐疑が残り、少数与党のまま議会の地図は動かない。交渉の起点から険路が見え、信任の可否をめぐる神経戦が再開したと映る。
迫る13日の期限、予算と政局のせめぎ合い
焦点は13日である。通常手続きで年内成立を目指すには、この日までに2026年度予算案を国民議会へ示す必要があるとされる。間に合わなければ、来年の政府資金をつなぐ暫定措置や緊急法案に頼る局面が現れる可能性が高い。年の瀬へ向かうほど、政治の選択肢は細くなる。
議会は三つ巴で割れ、与党は単独で数を持たない。社会党や共和党の一部を巻き込めるかが成否を分けると映る。マクロン氏は再任に際し交渉の「白紙委任」を与えたとされ、連立志向の地ならしを急ぐ構えだ。妥協の線をどこに引くのか、各党の計算が交錯している。
それでも再編が実らず内閣が再び頓挫すれば、解散・総選挙は避けがたいとの見方が広がる。野党は不信任の構えを崩さず、可決の数合わせは一歩も誤れない。予算の行方は政権の存亡と直結し、単なる財政技術論にとどまらない重みを帯びてきた。
経済の影と世論のうねり
経済の影も濃い。フランス銀行の総裁は、政治不確実性が成長率を0.2ポイント押し下げ得ると警告した。市場の神経質さが続けば、予算の信認はさらに重みを増す。統治の継続性を示せるかが、国債と企業心理を左右する。経済指標の一つひとつが、政治の体温計になっている。
ルコルニュ氏は組閣にあたり「刷新と多様性」を掲げ、閣僚には27年大統領選への個人的野心を封じるよう求めたと伝わる。政権内の将来待望論をいったん棚上げし、当面の合意形成に力点を移す狙いがにじむ。大統領も再任で賭けたのは、交渉力の一点突破である。
予算の中身も駆け引きの火種だ。歳出削減と増税の配分、年金制度の扱いをめぐり、左派の要求と保守の条件は鋭く対立する。一部報道では年金改革の年齢引き上げ時期の修正案も浮上したが、与野党の歩み寄りは見通せない。予算と政局が絡み合い、フランスの選択は正念場を迎える。
